「本作では2時間にまとめるというこは並大抵の大変さではなかったでしょう。見事に大きな破綻がなく、映画作品に仕上げました。」アキラとあきら 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
本作では2時間にまとめるというこは並大抵の大変さではなかったでしょう。見事に大きな破綻がなく、映画作品に仕上げました。
【ご注意】結末には触れていませんが、一部ストーリーを解説しています。
先ずは、三木監督のファンにとって三作品が同じ月に公開されているという奇跡みたいなことになっています。しかも三作品は多種多様。三木監督本来のらしさ溢れる悲恋映画もあれば、山崎貴監督が手掛けそうなロボット映画もあれば、本作のような福澤克雄監督が手掛べき池井戸潤原作作品に挑戦したりで、真に三木監督のフトコロの深さを感じさせる三作品同時公開となりました。
本作は、池井戸潤作品としては異例の雑誌連載小説のまま単行本化されず埋もれていたのが2017年にWOWOWでドラマ化されたのがきっかけとなり注目されて映画化に至った作品です。
日本有数のメガバンクに同期入社した山崎瑛(アキラ・竹内涼真)と階堂彬(あきら・横浜流星)。同じ読みの名前を持ち、性格や信念が正反対の2人が、立ちはだかる「壁」に協力して立ち向かうストーリーです。
少年期の偶然のふたりの出会いから始まり、約30年間にわたるふたりの熱い関係は、連続ドラマWでも全9話18時間でやっと描けているのに、それを本作では2時間にまとめるというこは並大抵の大変さではなかったでしょう。でも本作では、ふたりの銀行に入る前のいきさつをバッサリと切ってしまい、重要なエピソードのみをピックアップし適宜挿入する手法で、見事に大きな破綻がなく、映画作品に仕上げました。
銀行が舞台で、池井戸作品の中でも銀行業務の中でも中枢を担う部分を扱う作品だけに専門用語が乱舞しますが、三木監督は慎重に深入りをさけて、金融や経済が苦手な人でも楽しめる作品に仕上げました。ラストシーンでアキラとあきらが、お互いを見つめ合うシーンは、まるで三木監督の作品にありそうな恋愛映画のような終わり方だったのです。
物語は1988年に遡ります。実家の零細工場が倒産したばかりの山崎瑛、運転手付きの高級車に乗っている階堂彬。普通であれば、交わることのない幼い2人が、運命の出会いをします。2人の“アキラ”の人生の交差はこの年から始まっていたのでした。
やがて2000年4月。メガバンク・産業中央銀行の新人研修で伝説が生れました。研修の最終行程で行なわれる実践形式の融資プロジェクトで、相対した瑛と彬。誰も想像のつかない提案をした融資を申し込む会社側の彬。それを粉飾決算と見破った、融資の可否を判断する銀行側の瑛。お互いの健闘を讃える2人。この時はまだこれから待ち受ける過酷な“運命”を、2人は知る由もなかったのです。
入行直後から大型融資案件を決めて、勢いづく彬。それに対して瑛は担当する零細企業が切り捨てらようとすることに我慢できず、職務上の秘密を漏らしてしまい、地方支店に左遷となります。かつて実家の工場が銀行に切り捨てられて倒産した辛い過去を持つ瑛にとって、同じような零細企業を救うことが銀行員になった目的だったのです。だから担当する企業が切り捨てられることに納得ができませんでした。
そんな瑛に彬は、おまえは理想主義者だと見下すのでした。
やがて、彬の実家が経営している大手の海運企業東海郵船では、代替わりが起こり、弟の龍馬(髙橋海人)が、社長に就任します。
そこに目を付けた、グループ会社の社長を務める叔父の階堂晋(ユースケ・サンタマリアと階堂崇(児嶋一哉)に龍馬は乗せられて、ふたりの叔父が立ち上げたリゾート開発事業の支援を引き受けてしまいます。それを危惧する彬は龍馬に意見しますが、龍馬は聞く耳を持ちません。
そのころ本店に復帰して、東海郵船の担当となっていた瑛と新人行員の水島カンナ(瀧本美織)は、龍馬がとんでもない保証契約を叔父のふたりと結んでいた事実に気付きます。瑛は彬に東海郵船は危機的状況にあり、それを救えるのは彬しかいないと伝えるのでした。
危機に陥った実家の東海郵船に対して、跡継ぎとなることを嫌って飛び出していた彬は、見捨てようとしていたのです。そんな彬に、何とか東海郵船を救おうと奮闘していた瑛は「逃げてはいけない。ちゃんと向き合うんだ!」と彬に一括するシーンが峻烈でした。このあと彬は、龍馬からの「助けて兄さん!」との嘆願も受けて、銀行を退行し、東海郵船の社長を引き受けることになったのです。
持ち上がった東海郵船グループの倒産の危機を前に、瑛と彬は、これまでお互いの信念の違いから反目し合っていた関係から一致団結します。そして固い絆で結ばれるようになっていくのでした。
そんな社長となった彬に瑛は、ウルトラCともいうべき画期的救済策を提案します。
一瞬希望が垣間見えますが、そこに立ちはだかったのが瑛の上司の不動公二(江口洋介)。彼の口癖は「融資の確実性」。瑛の救済策には確実性が見込めないと自行の支援を拒絶するのでした。
はたして瑛と彬の熱い絆で、東海郵船は救えることができたのでしょうか?
まっすぐな性格の瑛を全身で表現する竹内涼真と、冷静沈着で陰を持つ彬を目線一つで感じさせる横浜の横浜流星が効いていました。三木監督の演出はごくごく自然体で、『半沢直樹』の福澤監督ほどにオーバーアクションではないのですが、瑛と彬の危機的状況に立ち向かっていく熱さは充分に伝わってきました。
特に、自分の理想を曲げずに社会の中で強く生き抜く姿勢を演じきった竹内には、『六本木クラス』で奮闘する主人公とオーバーラップします。適役でした。
また瑛の壁となって立ちはだかる上司の不動にも注目。冷徹な江口の演技だからこそ、感動の結末につながりました。瑛が「倍返し」で仕返ししなくてもです(^^ゞ
ところで一見すると金融ドラマに見える本作ですが、実は重要な人生ドラマのテーマが隠されていたのです。
それは、「どんな人生の問題集(宿命)を背負ってでも、乗りこえられるのか!」というものでした。その命題を解き明かすために瑛にはいろいろな試練が降りかかります。それでも諦めず、立ち向かうことを止めなければ、神さまはちゃんとどこかに解決策を用意してくださっているというものでした。
なぜ神さまが出てくるのかといえば、本作の冒頭で「宿命は必ず乗り越えられる」と瑛少年に語ったのが、瑛の父が経営していた「山崎プレス工場」の専務保原茂久(塚地武雅)だったからです。保原は熱心なクリスチャンであり、聖書の言葉を引用して、父の会社の倒産に泣き崩れる瑛少年を励ましたのが、この言葉だったのです。
わたしも人生とは問題集のようだと常々思っています。人にはそれぞれ宿命があり、ざまざまな業(カルマ)を背負って生きています。生きていると順風満帆とはいかず、まるで何かの問題集を解かされるているように、難題が降りかかってくるものです。その難題を解いて、自分がどんなことに気付くべきか、難題からの教訓を得ることこそ人生の目的ではないでしょうか。そしてそこから逃げずに立ち向かっていると、不思議に解決策は見えてくるものです。それが保原の伝えようとしたことだったのです。
神さまを信じようとしない人でも、本作をご覧になっていただければ、人生に解けない問題集はないと実感してもらえることでしょう。いま瑛のように人生の難題にぶち当たって苦悩しているしている人が、本作をご覧になっていただければ、きっと乗り越えられない宿命はないと、心の奥の奥から勇気が湧き上がってくることでしょう。落ち込んでいる人に特にオススメしたい作品です。
最後に向井理と斎藤工が主演したドラマ版も見応えたっぷりでした。ぜひ宅配レンタルか「Amazon prime」でご覧ください。特に映画版では割愛された叔父たちのグループ企業によるリゾートホテルの運営実態が、どんなに劣悪だったか具体的に描かれます。きっとこれでは仕方ないなと皆さんも納得されることでしょう。
公開: 2022年8月26日
上映時間:128分