「日本映画にしては珍しい「物量」で勝負しかける作品」ハケンアニメ! ONIさんの映画レビュー(感想・評価)
日本映画にしては珍しい「物量」で勝負しかける作品
面白かった。なかなかないタイプのエンタメを吉野監督は成立させたな、と。ひとことで言うと「情報戦」。日本の監督で情報を処理して伝えることに腐心できる監督はそうはいない。CGの使い方なども熟知していて、アニメスタジオというあまり映画的でないかもしれない舞台をあの手この手で見せている。
原作もアニメの職場ものというより、むしろ、再起をかけた天才監督と新人監督の視聴率をかけたデットヒートストーリーなのでよりエンタメ的つくり。おまけに熱いセリフ満載で、ものつくりに関わる人はたまらないだろう。偶然昨日みた「辻占恋慕」の浮き上がれるかどうかまったくわからない音楽業界の片隅の更に片隅の少数の人間模様に感動し、今日はまたえらい陽の当たり方の違う業界ものでまた感動。しっかり観客を楽しませることができてると思うのだけど、う〜ん、と思ったこともいくつか。
まず、視聴率競争。そこがポイントなのか?というところと、その情報を完全に本編と切り離したCGシークエンスで作り込んでいるところ。もっとドラマの中で観たかったが尺の問題か。そして、2つのアニメの何が視聴率を左右させてるか、それが最終回にどう繋がっているかがわからないところ。
途中半端に過去回想で少女時代に家に借金取りなど来ているが、そういのはいらないし、となりの少年も猫もそんなに効いてない。主人公が「興味もなかった」アニメの世界に入ったきっかけ(それがライバル監督の作)がとりわけ重要なモチーフなのにそれがブランクになっている。そしていま正に彼女とライバルが描いてるものの「何が」視聴者に刺さってSNSが盛り上がってるのかがノータッチ。ラストに「刺さる」前に、本当は視聴者に刺さっているはず。受け手側の変化を出す場所に電車、駅ビル前、ガチャポン売り場、校舎を改造したスタジオなど用意されてるけど、もう少し中身(つまりコンテ作業)を描いてないと、各スタッフ、声優へのアドバイスが活きてこない感じがする。
とは言え、見せる、という意味では面白かった。キャストも良かったけれど、キャストも「情報」の内であったのはもったいない、とは思いつつ、劇中のふたつのアニメの中身はとても興味をそそるものであって、「ミッドナイトスワン」が主軸でなく女の子のバレエで持っていったように、本作もアニメパートの見栄えがかなり良く、そこが高評価ポイントでもある。