劇場公開日 2022年3月25日

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「MV風」ベルファスト 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)

2.5MV風

2022年8月17日
PCから投稿

ウィキペディアに『ブラナー監督の半自伝的な作品である。』とあった。
出自をあつかった思い入れの深い主題で、撮影も演出も俳優もいい。

RottenTomatoesが88%と92%、IMDBが7.3。
批評も成功していて、映画は高い次元で達成されていると思う。

が、個人的には事象の羅列に流しすぎな気がした。
全編がミュージックビデオのようだった。
ヴァン・モリソンの長いMVだった。

YouTubeで(再生回数)何億、何十億回というMVを見て楽しむが、映画とそれらMVの方法はちがう。

岡崎体育にそのものずばり「MUSIC VIDEO」というMVがあるが、MVはまさにあの方法論で成り立つことができる。顕著な特長は“イメージの羅列”。とくに意味がなくてもシーナリーや人の振る舞いに叙情があらわれていればそれでいい。

むろん映画ベルファストの情景には意味も思い入れもあるはずだが、それらがMVのように配置されている。すなわち「あの頃こんなことがあった」がストーリーの体を成さずに羅列されている。(ようにわたしには見えた。)

日本映画のようにエモーション(泣かせ演出)が介入してくるわけではないから、まったく腹は立たなかったが、(個人的には)深度のある主題にかかわらず、空振りを感じた。嫌な言い方だが「文句のつけにくい優等生映画」だった。

白黒にも思わせぶりな気配があった。とはいえ半自伝ならば追憶にもとづく──という理由において白黒映画であることに違和感はない。
監督自身──

『ブラナー監督は本作を白黒で撮影した理由について「僕がベルファストで育った時は、よく雨が降っていた。街の色合いは灰色。空は、炭や暗い灰色だった。ベルファストは、カムチャツカ半島中部と同じ緯度なので、かなり寒い。モノクロ撮影は、当時の記憶を呼び起こすためのものなんだ」と語っている。』
(ウィキペディア、ベルファスト (映画)より)

──とのことで、故由は理解できたが、やはり観衆にとっては単なるノスタルジーを形成する白黒になっていたと思う。
(ただし直近で見たMike Mills監督のC'mon C'mon(2021)の白黒に必然性を感じたことが(この辛口評に)影響している気はする。)

演者では、バディの母親役Caitriona Balfeが無駄なほどフェミニンなのが印象的だったが、キーパーソンはジュディ・デンチだったと思う。

よもやブラナー監督もデンチの深い皺の見た目を和らげるために白黒にした──とは言えなかっただろうが、彼女の皺がいちばん語った。

冗談を述べたのではなく、アイルランドの移民が世界中に散らばったのは、本国の混乱もさることながら、先達が家族に依存しなかったからだ。つまりアイルランドじゅうの祖父母たちが「わたしのことはほっといて行きなさい」という潔さをもっていたからだ。それをデンチの深い皺が語っていた。

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津次郎