劇場公開日 2022年3月25日

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「フィクションの力、映画の力」ベルファスト のむさんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0フィクションの力、映画の力

2022年4月1日
iPhoneアプリから投稿

コロナによるロックダウンが制作のきっかけだと、監督のインタビューに書かれていたが、ウクライナ侵攻によりこの作品がさらにタイムリーなものとなったように思う。

モノクロの映画だが、過去のこういった作品よりもシャープな絵の印象を受けた。画面が全体的に明るく見やすい。各所で指摘されている通りだが、やはり本作はこのモノクロとカラーの対比が秀逸だった。日常がモノクロで、舞台や映画、つまりフィクションの世界がカラーで表現されていることが特に印象的だ。主人公のバディにとって、心躍るフィクションの世界は色鮮やかなものであり、日常はテレビで見たモノクロの西部劇のように、どこかにいつも緊張が流れているのであろう。そう考えると、冒頭とエンディングで映される現代のベルファストの色鮮やかな街並みに、ケネス・ブラナーの想いを見た気がした。

この映画で描かれているのは「共に生きる」ということだ。1969年の北アイルランドでは、プロテスタントとカトリックが共に生きる道を見つけられず多くの犠牲を生んだ。父は家族が共に生きるために悩み、母は故郷と共に生きるために悩み、子どもは共に生きたいと願う少女がカトリックであることに悩む。彼らが悩んで出した答えが正解かはわからない。しかし50年経った今、北アイルランドの人々は武器を置き、共に生きる道を歩んでいるように思う。

過去は消せないし、分断は続いている。しかし、私たちは、皆が共に生きる世界を作らなくてはいけない。映画はフィクションだか、そこに現実を変える力があると私は信じている。この映画が多くの人の心に届くことを願ってやまない。

のむさん