「夢でもし逢えたら」スランバーランド 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
夢でもし逢えたら
原作は『リトル・ニモ』。どっかで聞いた事あると思ったら、昔そんなアニメ映画あった。見てないけど。(調べてみたら、1989年の『NEMO/ニモ』。日米合作のビッグネーム携わる巨額の製作費を投じた意欲作だったが、大コケ…)
新たな映画化になるが、これまた調べてみたら、ベースにした程度で全くの別もん。主人公は少年から少女に代わり、夢の世界での冒険は同じだが、話は全然違う。
灯台守の父親と小さな島の灯台で暮らす少女、ニモ。
寝る前にしてくれるパパのお話が大好き。
夢の国“スランバーランド”で、無法者だったパパと相棒フリップの大冒険…。
ある日の嵐の夜、事故でパパが帰らぬ人に…。
都会に住むドアノブ・セールスマンの叔父に引き取られるが、仕事人間の叔父との関係や新しい生活や学校に馴染めず…。
そんな時、スランバーランドの秘密の地図を見つけ、夢の中でフリップと出会う。
どんな願いも叶うスランバーランドにある真珠。
願い事はただ一つ。もう一度、パパに会いたい…。
原作小説は独創的でもある名著らしいが、映画はよくある話。何処かで見たエピソードの繋ぎ合わせ。
強いて新味を挙げるとしたら、叔父さんの仕事がドアノブ・セールスマンってくらい。そんな仕事の映画の登場人物、初めてだよ(笑)。“世界のドアノブ”って本も、つまらなそう? 興味ある?
冒険ファンタジーとしてはハラハラドキドキワクワクスリルは物足りなく他愛ないが、コミカル&ハートフルのファミリー向けとしては及第点。
夢の中の世界なので、CGを駆使したファンタスティックな映像世界は見もの。
皆が見る夢。蝶のダンスパーティー、大型トラックを運転する少年、泳ぎ着いた先はトイレ、巨大グースに乗って空を飛ぶ…。ユニークなイマジネーションが楽しい。
夢の中の世界の冒険って事は、現実世界ではほとんど寝ているって事。『インセプション』みたい。いやそれより、もっとファンタスティックな冒険で言うと、ドラえもん映画の『夢幻三剣士』を彷彿した。
夢は楽しい夢もあるが、怖い夢もある。
ニモらを追い掛ける“悪夢”。ニモのトラウマとでも言うべき目的地の灯台の前に立ち塞がる嵐や暗い海…。
夢は奇想天外だったりヘンテコだったりするが、中には自分の心を反映した意味深なものもあるという。
私がよく見る空を飛ぶ夢って、何の暗示だろう…? 夢って不思議。
スランバーランドでは、他人の夢の中へ入る事が出来る。でも、悪夢で起こされちゃあたまったもんじゃないけど…。
本作が映画デビューのマーロウ・バークリーもキュートだが、やはりジェイソン・モモアに尽きる。
夢の中でニモが出会う奇妙な男、フリップ。
角を生やしたぽっこりお腹。ワイルドで、エキセントリックで、情に厚くて…。
ハードで男臭いイメージのジェイソンが、まさかのファミリー向けファンタジーに出演…!
実は、本作を見てみたかった一番の要因が、コレ。
新境地のようなハイテンションのコメディ演技。素のままも投影し、楽しそうに演じているジェイソンに、新たな魅力を見た。
夢の中の世界でのニモとフリップの冒険が主軸だが、現実世界も損なわず描いている。
つまらない現実世界で、ドアノブ・セールスマンのつまらない叔父…かと思いきや、
この叔父との関係にもフィーチャー。
独りが好き。ぎこちない姪への接し方。
でも、彼も彼なりに姪の事を心配している。
夢を見ないという叔父。子供の頃はよく夢を見ていた。夢が大好きだった。兄と夢の世界で…。
ある事をきっかけに、夢を見なくなった。…いや、“夢の中の自分”が夢の中に置き去りのままと言った方がいいか。
現実世界と夢の中の世界の自分は別人。劇中のこの台詞で察しが付いた。
叔父の名は…。
もうほとんどネタバレしちゃってるけどね。
叔父にしてみれば、夢への目覚め。
ニモにしてみれば、現実への目覚め。
相反しているようだが、ニモと叔父、現実と夢、絆と繋がりを結ぶ。
いつまでも夢の中の世界に浸っていてはいけない。
我々は夢の中の世界ではなく、この現実世界を生きているのだから。
作品でもしっかりメッセージ。
では、夢は何故見る…?
それは、道しるべ。海を照らす灯台のように。
夢を見る事は悪い事じゃない。
いい夢を見て起きた時の心地よさ。
その日の活力になる。
案外、夢の中の自分こそ、本当の自分だったり…?
それに、夢は叶えてくれる。
歌にもあるじゃないか。
♪︎夢でもし逢えたら
素敵な事ね
あなたに逢えるまで
眠り続けたい