劇場公開日 2022年5月20日

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「なぜか天文知識やら数学知識が求められるので要注意(補足入れてます)。」大河への道 yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5なぜか天文知識やら数学知識が求められるので要注意(補足入れてます)。

2022年5月21日
PCから投稿

今年148本目(合計422本目/今月(2022年5月度)25本目)。

ということで「a-ha」から25分違いでこちらの映画。

この映画で述べられていること、つまり、「実際には伊能忠敬は日本地図を厳密には完成させていない」という点は、映画としては初めてかと思いますが、クイズ番組や雑学本等ではよく取り上げられていた話題(実はここも知っている方は結構いそう)、そこの斬新さはあまりないかな…というところです。

他の方も書かれている通り、現代日本(千葉県と千葉県の市の魅力を伝えるための観光(地域)行政という話)と江戸時代が交互に出る、というストーリー仕立てです。ただし、どちらの話をしているのかはちゃんと明示がありますし、そんなに何度も入れ替わるわけではないので(確か、どちらも3回程度の合計6回くらいだったはず)、そこで「今どこの話をしているのかわかりづらい」という論点は発生しにくいところです。

映画としては初めてでも、このこと(史実通りの内容)は少なからぬ方が知っていることで、それをどう映画というエンターテインメントに落とし込むのかという論点がやはりあり、そこは工夫が見られたので良かったです。

一方、それにこだわったのか(作品の完成にこだわったのか)、一部にわかりにくい点や、なぜかしら突如天文の話をしたり、当時(江戸時代)の事情を知らないと趣旨がわかりにくい点もあります。

予習必須とまでは言えないにせよ、「より理解度を上げる」ためにはちゃんとした事前のチェック(情報収集。公式サイト等)があればより有利です。

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(減点0.4/説明不足・日本語の誤用等)

 ・ 映画内でも触れられている通り、当時は測量技術がまだ未発達で、日本でも取り入れられていた三角比(三角関数ではない。映画内では「三角関数」といっているが、趣旨的には「三角比」が正しい)が使われています(これは今は関数電卓でも出せますが、当時にはすでに早見表などはありました(サインコサインという言葉が日本に来るのは、明治時代以降のお話であり、実質それに相当する概念が日本にもありました)。

 この話がいきなり十分な説明なく出てくるのがちょっと厳しいかな…というところです(今では理系文系共通の高校1年の数学の話ですが、数学嫌いな方にはちょっと厳しいところです)。

 ・ この映画、ご覧になるとわかりますが、北斗七星(おおぐま座の一部。北斗七星は星座ではないので注意)と北極星が何度も描写されますが、具体的な言及はありません。

 北極星の見える高さと、その場所の緯度は同じだということは小学4年では発展扱いで学習します(私立中学等では普通に出してきます)。このことは当時の日本でも知られていたのですが(つまり、何度も北極星を見ているのは、緯度の確認、ということです)、緯度ではないほう、つまり、経度については日本の当時の測量技術が未発達であり(クロノメーターに相当するものがなかった)、このことが映画内で振られている「蝦夷(北海道)・九州でゆがみがある」という部分です。

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 (参考) なお、当時はまだ日本には「北極星」だの「北斗七星」といった語は存在「せず」、日本ではこの当時もまだ、中国文化から「輸入」した中国式の「星官」が一般的でした(88星座が普及するようになったのは、開国以降の明治以降の話です)。ただ、北斗七星は有名なので「斗」だけで呼ばれていたりという部分はあります。

 (※) この「北斗七星と北極星が映るシーン」は結構あるのですが、妙に北極星(2.00等級)が明るく描写されているのは気になりました(→対比される北斗七星をなすいくつかの恒星よりも暗い)。あの明るさ・色(オレンジ・黄色)からすると、アークトゥルス(-0.04)やカペラ(0.08)を想定するほどの明るさですが、位置関係としてそれはないのですが、ここも気になったところです。

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 ・ ラストあたり、完成された日本地図が公開されるシーンは見どころですが、あのシーンをよく見ると、海岸線付近は非常に正確に作られているのに、内部、つまり、「海岸線付近でない部分」はほとんど描かれていない(何も描かれていない)ことが描写されます。

 これは映画内の手抜きでもなく、当時の地図の作成の手抜きでも予算不足でもなく、当時、日本地図の完成というのは「ロシア等からの海をわたっての密入国対策」という問題に解決する幕府の方針でした。したがって、この観点では「海岸線にいたる部分はちゃんと描かれている必要はあるが、富士山の位置だの琵琶湖がどうだのというのは本質論ではなかった」のです。

 ・ 「鳥肌が立つ」というのは、(ホラー映画などでの)恐怖で皮膚に鳥肌が立つことを意味する慣用句であり、「何かに感動すること」を意味する表現では「ありません」(江戸時代から含めてこのような用法はなく、この「何かに感動すること」をこのように表現する誤用が広まったのは、平成に入ってから)。

 これも誤用が広まっているので理解はしますが(日本国内では国語の誤用に近い)、意地悪な言い方をすれば「何を言いたいのか不明」です。
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yukispica
YOUさんのコメント
2022年6月4日

蝦夷地(北海道)にゆがみがあるのは、最初に手をつけたところで慣れない部分もあり、本人も見劣りすると感じていたようで、九州の測量後にもう一度やらせてくれと幕府に願い出ていますが却下されています。

YOU