「大切なものをすべて押さえている、素晴らしい映画」コーダ あいのうた BDさんの映画レビュー(感想・評価)
大切なものをすべて押さえている、素晴らしい映画
ええ、当方それなりにヒネクレた人生を送ってきたものでね。
「家族みんなが耳が聴こえなくて、1人だけ耳が聴こえる健気なティーンのガールが、歌の才能を見出され…」
的なプロットを聞かされると、
「出ましたね…これは。大丈夫なんですか?貴重な休日の2時間を使ってお涙頂戴ですか?だいいちそんなCHARAみたいな邦題よくつけまし(略)」となってしまうクチなのです。
なのですが、いやぁやられました。
序盤からルビー一家の漁業の描写がもう豊かだし、みんな目がいいですね。社会はクソだし、辛いことばっかりだけど、陽気に楽しく生きていく。その傍に音楽と、そしてユーモアがある。ゴスペル、ブルースに始まり、映画で音楽を取り扱う時はこういう「寄り添い感」が大切。
家族それぞれがそこそこくたびれてるんだけど、生きしぶとくて、嫌なことにも負けなくて、汚い言葉も平気で言うし、あとパパママの性欲がメチャメチャ強い笑 こういうのも大切。そして、毒親といえば毒親なんですけど、ギリギリで見てて不愉快なラインに落ちてない。そのバランス!重いテーマを扱っていますがこの映画はエンターテイメント。それもとっても大切。
個人的に、見てる最中にプロット感を想起させない描写の映画が好きで。ああ、こういう事を描こうとしてるんだろうな、と思いながら見るよりも、その時々で起こる事象が魅力的で、何これクスクス、ってなってる間に、気がつくとストーリーが動いてる映画の方が好み。その意味でこの映画は素晴らしい映画でした。みんなチャーミングですよね。
耳が聞こえない家族と、歌に魅了された娘。構造的に、娘の夢に家族は寄り添ってあげられない。この根本的な断絶とそしてそこを微かに埋める「身体的アプローチとしての音楽」。パパ曰く、ケツが揺れるラップは最高だ!耳が聞こえなくても、振動という形で感じられる「音楽」がある。あ、なるほどそう言うのは分かるんだねパパ。…このシーンが大きく終盤まで響く伏線になってきます。これも本当に美しかった。耳の聞こえないパパは、ルビーの歌を、首筋を触って声帯が震えるのを感じることでしか理解できない。そういうシーンも、変なタメなくスッと目の前に提示されて、まぁ泣きました笑。発表会でいきなり音がなくなるのも、ベタだけどズルイですよね。
結局のところこういう映画こそ、「キャラクター」というか、登場人物の「実在感」のようなものが本当に大切なんだなと思いました。目の前の生活に翻弄されてルビーのやりたいことを押し潰しちゃいそうなパパママ。でも本当はそんなこと望んじゃいない。普段の行動からそれがしっかり見える。ルビーに悪態をつきながら、家族に潰されるなと思いの丈をぶちまけるアニキもホントに最高。この世に悪い人なんかいない。
あとV先生もステキ。いかにもなヒネクレと熱さ。クセ強な音楽教師。こまごまとした描写がこれも大事な例ですよね。終始クスクスっとしてる間にいつの間にか涙が出ているというか。それとマイルズ君がめっちゃ怖がってたくせにルビーを止めてひと足先に崖から飛び降りちゃうのとかキュン過ぎでしょう。こういう小さな「Yes!」の積み重ねがモノづくりにはホント大切ですよね。
という事で終始感情揺さぶりポイント満載の素晴らしい映画でした。美しいものを見た気持ちになれたので5点です!最高!
※話ずれますけど個人的にCLASHが大好きなので中盤のI fought the lawも良かったです。もう全部よかった。