「単なる苦境を克服して誕生する歌手のサクセスストーリーではない」コーダ あいのうた ブログ「地政学への知性」さんの映画レビュー(感想・評価)
単なる苦境を克服して誕生する歌手のサクセスストーリーではない
🔳押し付けないハンデある人たちの心情
聴覚障害というハンデを持ちながら強く生きる家族に対し世間は必ずしも優しくない。それでも明るく、時には社会の不条理にそれぞれの形で立ち向かう家族の姿が自然と見ている人の心を引き込んでいく。
🔳第一クライマックスの静寂がどんなメッセージをも超越
衝撃的な表現力だった。どんな観客も主人公の美しい歌声を聴きたくなるだろう。ましてやその歌声それが家族なら。そんな家族の気持ちを表現するための表現は主人公の最高の歌を期待していたものに実に容赦無い。ここで見るものの誰もが主人公に家族側が背負ってきたハンデの凄まじさを知ることになる。単に歌手のサクセスストーリーを描きたかったのではないという監督の信念を感じさせられた。
🔳トレードオフされているヤングケアラー問題
聴覚障害の家族の元に生まれた主人公はヤングケアラーにあてはまる。この主人公は自分の歌に希望を見出すことが出来た。現実にはそうした境遇にない人が少なくないであろう。声もあげられず、与えられた境遇に甘んじながら生きている子供たちがいることに思いを馳せるとこの作品を手放しで賞賛しづらいものがある。
🔳聴覚障害者にとって手話の歌とは
さらに聴覚障害がある人に手話で歌を共有する価値を過大に評価していないだろうか。音の振動のリズムと手話が調和して伝わる感覚やその他にも視覚で音楽を表現する試みはあるだろう。それで聴覚障害者も一緒に感動を共有しているかどうかは聴覚保持者は確信を持てないはずだ。それでもそうした試みの価値は評価されて良いが、真に感動を共有できる手段を追求しないと単なる思い込みで終わってしまう。