「立ち止まっていても何も変わらない、行動する勇気を持て」コーダ あいのうた みかずきさんの映画レビュー(感想・評価)
立ち止まっていても何も変わらない、行動する勇気を持て
第94回アカデミー賞作品賞受賞作。家族の中で唯一健常者である高校生ルビーが夢を追っていくことで、ルビー自身と聴覚障害者の家族(両親と兄)が成長していくヒューマンドラマである。
本作で登場するのは、健常者の少女が献身的に家族を支え、家族は少女に感謝するという模範的な家庭ではない。リアルな家庭である。ルビーは家族の通訳であり続けることに苛立ち、音楽への夢をどうするか苦悩している。漁業を家業にしている家族は、当然のように遠慮なくルビーに依存する。健常者の家族のように自己主張はするし、喧嘩もする。障害者=弱者という意識は希薄であり、対等に健常者と交流する。日本との違いに愕然とする。邦画『こんな夜更けにバナナかよ』の障害者役の大泉洋の自由奔放さを思い出す。
そんな家族に変化が起きる。ルビーは新学期を迎え、突如、合唱部に入部する。ルビーは苦悩の末、夢を追う行動を起こす。顧問の先生は彼女の歌の才能を見抜き、音楽大学への受験を勧める。ルビーは両親に音楽大学受験を懇願するが、両親にはルビーの歌声が聞こえない。ルビーの歌の才能が分からない。彼女抜きでは家業が成り立たない両親は猛反対する。ルビーは夢を捨て、今まで通り家業を手伝おうとするが、兄に背中を押され、夢を掴む道を選ぶ。
ルビーが高校の音楽発表会で歌唱するシーンに、両親の想いが凝縮されている。会場にルビーの歌声が響き渡った後、暫くの間、静寂が映画館内を支配する。両親が感じている無音の世界に導かれる。両親にはルビーの声は届かない。ルビーの才能の確認はできない。しかし、両親は、ルビーの音楽大学受験を許す。ルビーの才能を信じ、ルビーの家族からの巣立ちを許す。同時に、ルビーへの依存を止め自立を目指していく。
ルビーは、音楽大学に合格する。夢への扉は開かれる。
本作は、夢を諦めず行動したルビーが自身を成長させるとともに、家族の絆を強めた作品である。行動する勇気の大切さを教えてくれる作品である。