「無音の世界へ誘う演出が秀逸」コーダ あいのうた REXさんの映画レビュー(感想・評価)
無音の世界へ誘う演出が秀逸
あの無音の演出がなければ、この映画がそこまで高い評価を得なかったのでないだろうか。
私たちが外側から見ていた彼らの世界へ、観客を一気に連れて行った。
ルビーの人生のハイライトであり、観客が一番観たいと思う映画のハイライト。
その大切な大切な瞬間を、共有できない家族。
少しでも観客がその立場を理解できたら。そういう創り手の思いが感じられた。
自分の娘が耳が不自由であってほしかったという、閉鎖的な性根の母親・ジャッキー。
自分の意気地なさを家族がいるからと言い訳にする娘・ルビー。
家族に頼られたいもどかしさを妹にぶつける兄・レオ。
快活な性格な割に、現状打破に重い腰の父・フランク。
しかし健常者も不自由な人も関係なく、自分の殻を破る勇気があれば、少し違う新しい日々を送れるかもしれない。
そんな風に背中を押してくれる映画だった。
現実には、こんなにお綺麗なことばかりではないかもしれない。
身体障害者を取り巻く環境は、もっと厳しいかもしれない。
でも、結局自分を幸せにするのは自分自身なんですよね。
最後のステージで手話を交えながら歌い上げる場面は、ルビーが本当に気持ちを伝えたい相手は誰だったのかよく伝わり、涙無くしてはみられませんでした。
興味深かったのは、前述したジャッキーのセリフで、自分の娘が健常者だとわかったときに落胆したというところ。「わかりあえないかもしれない」と不安になったの弁の裏に、自分が娘を妬むのではないか?という杞憂を垣間見た。
そこで気が付いたのは、私たちは彼らのことを勝手に「社会的弱者だから人の弱さに寛大で、優しい人々」と勝手にカテゴライズしていないだろうかということ。特に映画の中では。
それらが現実社会において、彼らを息苦しくさせているのかもしれない。