「家族に振り回される彼女が手繰った夢1つ、普遍性が…」コーダ あいのうた たいよーさんさんの映画レビュー(感想・評価)
家族に振り回される彼女が手繰った夢1つ、普遍性が…
噂のアカデミー賞・作品賞。あまり前知識は入れず、その噂だけで来たからか、思ったより地味でハマらなかった。映画体験の余韻を食らった『ドライブ・マイ・カー』よりも観やすいが、特段凄みを感じられなかった。
実にハートウォーミングな作品だし、考えさせられる内容を広く透過している点は確かに見事。バックボーンを考えても、もっと大変なことがあることくらい容易に想像がつく。ただ、その家族愛が魅力的に映らなかった所が個人的には大きかった。ルビーに頼らざるを得ない環境も分かるし、生活するのも苦しいのだって仕方ない。ただ、すがり続けた彼女の開放に見えてしまって、肝心な部分が刺さってこなかった。逃げのない現実的な描写も続くので、実にシンプルな世界観も愛だけでは越えられなかった。
手話にも感情が宿る…それを知ったのは『ドライブ・マイ・カー』がきっかけだった。耳が聞こえなくともコミュニケーションに喜怒哀楽は当然宿る。下ネタも少しリアルだ。その両親の能天気さに呆れつつ、楽しく観ていた。それに対し、割とトントンことが上手く運ばれていったこともあって、普遍性が際立っていたように感じる。私からすると、ある家族の変化ってだけで、特段光るモノは見つけられなかった。
歌声は本当に見事。対局にいるようで実は超えられるモノでもある。それを手繰り寄せるルビーに感嘆するし、家族に振り回されながらも懸命に未来を手繰り寄せる彼女の大人っぽさに凄みを覚える。感情を乗せてからの歌声は震えるほどに上手い。
ここまで大きくなれば、当然合わない人も出てくる。ただ、自分も合わないと思ってなくて少し意外だった。これがあるから映画は面白いなーと思う。