「アントラーズは無敵だぜ〜♪ 下手に真面目ぶってしまったせいで可愛げを失ってしまった典型的な失敗作。」アントラーズ たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
アントラーズは無敵だぜ〜♪ 下手に真面目ぶってしまったせいで可愛げを失ってしまった典型的な失敗作。
オレゴン州の寂れた炭鉱都市を舞台に、ネイティブ・アフリカンの間で伝えられている悪霊“ウェンディゴ“による恐怖を描いたモンスター・ホラー。
製作は『ホビット』シリーズ(脚本)や『シェイプ・オブ・ウォーター』(監督/脚本)の、名匠ギレルモ・デル・トロ。
ブラジルから来日した“白いペレ“ことジーコが、鹿島アントラーズを日本一にするべく奮闘する青春J1サッカー映画である。
…嘘。本当は鹿みたいな角の生えたモンスターが人肉を喰ったりする映画である。
〈母なる大地は荒らされ資源は食い尽くされた。その罰として悪霊が目覚めてうんたらかんたら…〉というナレーションから映画が始まる。
鉱山の採掘と自然破壊は切っても切り離せない訳で、なるほどそれに怒った精霊が人間に復讐する『もののけ姫』(1997)方式の映画なのね、と冒頭で方向性をはっきりと示す作りは親切。
それは良いんだけど、問題は社会問題を詰め込み過ぎている事。環境破壊への警鐘、これだけで十分映画として成立するはずなのだが、そこに児童虐待、ネグレクト、薬物汚染、ヤングケアラー、PTSD、過疎化など色々な問題をこれでもかとぶち込んでしまった結果、非常に辛気臭くて陰鬱な作品になってしまっている。
とどのつまり、本作はモンスターホラーというジャンル映画。最終的に主人公の女教師が鉄の槍を振り回して「ウィッチャー3」の敵キャラみたいな悪霊を刺し殺すというトンデモな物語な訳で、そこで種々雑多な社会問題を提示しても、それはただの夾雑物にしかならない。
どんよりとした炭鉱都市の雰囲気は上手く作り出せていたが、ストーリーに関してはもう少しバカらしさが必要だった様に思う。こんな映画観る様な奴(自分を含む)に、重苦しい社会派な設定が好まれると思うなよっ!🫵
“ウェンディゴ“の造形は可もなく不可もなく。まぁありがちな感じのデザインで、特に怖くもないし強そうでも無い。むしろ、ウェンディゴが羽化する前のゴラム形態になったオヤジの方が思い切りがあって良かった様に思う。下手に怪物なんか登場させず、このゴラムオヤジをフィーチャーした方が面白いホラー映画になったんじゃないかなぁ。
下手に真面目ぶったせいで見どころが無くなってしまうというのはジャンル映画にありがちな失敗例。本作はその定型にスッポリと嵌ってしまっている。ホラー映画に大切なのは思い切りとバカバカしさ、つまり「可愛げ」である。それが無い作品をホラーとは認められまへん!
デル・トロならその辺の事よくわかってる筈だろ〜。あんたもっとしっかりとプロデュースしなさいよ〜。
この手の映画を観ていてよく思うのだが、アメリカの警察ってそんなに数が足りていないのか?今作だって、5人くらいが連続で、しかも超狂気的なやり方で殺害されている訳でしょう?それなのに、基本的にジェシー・プレモンス演じる保安官のワンオペで捜査が進む。日本の刑事ドラマなら県警本部が設置されて、「連続猟奇的殺人事件対策室」とかなんとか名前が付けられた看板(戒名)が仰々しく飾られて、大勢の刑事がホワイトボードと睨めっこしながら意味あるんだかないんだかよくわからない会議を繰り広げたりするもんなんだけど。
この捜査のこじんまり感はリアリティを追求した結果なのか、それとも単純な予算の都合が原因なのか、はたまたコロナウィルス蔓延のせいで人数を揃えられなかったからなのか、そこが意味深なエンディング以上に気になるところだったりするのだった。