劇場公開日 2024年3月15日

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「体感しなければ後悔しますよ」デューン 砂の惑星 PART2 クニオさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0体感しなければ後悔しますよ

2024年3月11日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

興奮

知的

 (先行公開IMAXで鑑賞) 文字通り壮大なスケールで描くスペース叙事詩。この圧倒的な映画としての醍醐味を味わうにはIMAXなどのラージ・フォーマットが相応しいと言うよりほぼ必須。精緻な画面が躍動し、マクロから顔だけのアップまで縦横無尽の画面に、爆音が響き体ごと振動に巻き込まれる体感を全身で受け止めたい。

 独特の世界観を有するSF巨編ですが、所詮殺し合いの戦争にストーリーは収斂し、数多の戦争映画と違いはない。その名の通り一面の砂漠が舞台であれば希代の名作映画「アラビアのロレンス」(1963)を否応なく連想する。そして本作の争奪戦の要であるスパイスと言いしものが惑星間移動に欠かせないモノであれば、すなわちそれは石油を意味し、容易く中東問題に置き換えられてしまう。まさに砂漠の民が守ってきたものが、異民族によって挑発され無用な戦争に仕掛けられてゆく悲惨を描く。そして性懲りもなく今も引きずっているわけ。

 「アラビアのロレンス」で、部族が入り乱れ、利権と理屈が混迷し、だから誰が誰だか、利害関係がどうなのか訳わからなくなった記憶が、そのまんま本作でも蘇る。それでも巨匠ディビット・リーン監督がスクリーンに高潔な砂漠の本質を示し得たように、本作の名匠ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は何を本質に描くのか、が最大のポイントとなる。

 フレーメン、ハルコンネン、皇帝、アトレイデス家、ベネ・ゲセリット、スティルガーなどなどが登場し、シェークスピア的血で血を洗う状況まで持ち込み、訳分からなくなってしまいます。ティモシー・シャラメ扮するポールとゼンデイヤ扮するチャニさえ観ていれば十分ですよ。この他、レベッカ・ファーガソン、ジョシュ・ブローリン、オースティン・バトラー、フローレンス・ピュー、クリストファー・ウォーケン、レア・セドゥ、ステラン・スカルスガルド、シャーロット・ランプリング、ハビエル・バルデム、アニヤ・テイラー=ジョイなどなど主役級がぞろぞろ出、それぞれの雰囲気を味わえば十分に楽しめました。ことにも男爵の甥に扮したオースティン・バトラーの白塗りが出色の出来、ハビエル・バルデムなんぞロレンス版のアンソニー・クインそのままでした。

 で、予言の通りに事が進み、いよいよもってポールが生まれながらに有する救世主になり得る宿命との葛藤にフォーカスされる。クリス・ヘムスワースのような立派な体躯の持ち主でないティモシー・シャラメが主役である意味がここで重みを持つ。政略結婚を持ち出すポールにチャニの分かり易い反発も描かれ、この巨編を作家性を維持したまま送り出す監督のバランス感覚の良さに驚いてしまう。

 サンドワーム騎乗は「風の谷のナウシカ」を思い起こさせ、多数の飛行隊の戦いは「スター・ウォーズ」そのもので、無数の民衆のスタジアム?なんぞ遠近感が半端ない。デューンは赤茶けたベージュ一色の世界、乾いた砂に情緒の入り込む余地はないけれど、唯一、人物の「白目だけがブルー」に見える演出に温か味が宿る。ブルーと言えば目の他はチャニのハチマキだけに意図はあるのでしょう。そして特筆すべきはハンス・ジマーの強烈音楽が素晴らしく激しい効果音とともに体の芯まで響き渡る、

 なによりPART2として、3に引き継ぐものの、変な中途半端もブツ切りもないのが潔い。全米俳優組合のストライキのため、今年に公開が延期となった本作。予定通り2023年に公開されていれば「オッペンハイマー」と賞の取り合いとなったでしょう。「灼熱の魂」(2010)にドキモ抜かれた天才監督と同時代に生きる幸運を喜びたい。

クニオ