「(ストーリーのネタバレはなし/法律的なお話の不足部分の補足がネタバレになるため)」ゴヤの名画と優しい泥棒 yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)
(ストーリーのネタバレはなし/法律的なお話の不足部分の補足がネタバレになるため)
今年57本目(合計330本目/今月(2022年2月度)29本目)。
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この50分前に「劇場版 DEEMO サクラノオト」を見ていますが、アニメ作品にレビューの需要はないと思うので飛ばします(私が見に行ったのは、私が15までエレクトーンをやっていた事情もあり、音楽系アニメは一定程度興味があるからです)。
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さて、こちらの作品…。痛快なおじいちゃんのおとぼけ枠か…と思いきや…。
実はムチャクチャ難しいです。
というより、日本では中高では民法や刑法なんて扱わないし、誰もが法学部に行かないし、ましてや誰もが司法試験だの行政書士試験だの取得しているわけではない(この2つ+司法書士とあわせて、登録者数でも日本では11万人)ので…。
ここのレビュー的にはストーリーというより、「趣旨がマニアックすぎて、ラストが理解しづらい」という点について「のみ」触れます。
また、私も行政書士試験レベルの水準で、見た後に色々大阪市立図書館で調べた結果がこれで、これ以上求めるとなると、もう「●●県弁護士会か何かで見に行くんですか?」「連れていく方なりが全員が全員弁護士の方ですか?」というレベルにしかならないと思います…(司法「書士」試験では刑訴法は触れないし、行政書士試験では刑法の初歩しか触れない)。
ここで「ネタバレあり」でやっているのは、「解説するととても5000文字で収まらない」「書くと結局ネタバレになってしまう」という特殊な映画であるという点につきてしまいます(年に1回はこういうのってありますよね…)。
よって、ストーリーの説明は他の方もされているので、私はもっぱら、触れられていない点について補足を入れる形にします。
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▼ (減点0.3) 下記のように、「7割でも正しい理解」をするためには相当な知識があることが前提で、それがないと誤った理解に飛ぶ点がかなり怖いです。
▼ (減点0.2) 他の方も書かれていましたが、字幕の日本語がよくわからない点が多いです(中盤あたり、どこかのコンビニか何かで馬券?を買うらしきところ「連続式馬券」って何なのだろう…?)。これがさらに「肝心となる法廷の部分」でも入ってくるので、字幕を諦めて英語で聞き取って後から調べる…という二重の作業が待っています。
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▼ 本映画を見るにあたって必要な知識(大阪市立図書館などで調べた結果)
● イギリスの法体系
・ これは中学校でも習いますが、イギリスは「基本的には」不文法の国です。要は「コモン・ロー」がはたらく国です。しかし、特に人の自由を奪うような(日本でいう刑法に相当する)条文が不文であるというのはまずいというのも事実で、20世紀に入って、「よくある犯罪類型」に関しては、ごく最低限の法が成文として作られるようになりました。
● 「懲役3か月」にいたったポイント
・ この映画自体は実在する人物を描いたものなので、大阪市立図書館含めて相当な資料が残っています。そしてこの裁判の資料も当然残っています。
ここで弁護士が主張したのは「盗難法(原題:Theft Act)(1968年版)」の11条「公共の場所からの物品などの持ち去り(remove)」です。「持ち去り」であれば、いずれ「返す」ことを意味し、実際に映画内でもその通りです。つまり、弁護士はこれを根拠に処分されるべきと主張したのです。当時は「一般法廷では5年以下、略式起訴裁判なら6か月以下の懲役か罰金」という緩い規定(当時は一般法廷か略式起訴かで法定刑上限が変わっていた模様)で、おそらく(映画では厳密に書かれていませんが)略式起訴で3か月(上限6か月に対して)というのは、これではないか、と思います。つまり、裁判所側からみると「法の穴を突かれた」ということになります。
● そのあと、BBCはなぜ主人公を訴えなかったか
・ 刑事事件と民事事件は違いますので、刑事事件で有罪・無罪となって切り離して、民事で責任を問うことは(時効などの制限をクリアする限り)可能です。つまり、「刑事事件は解決したけど、BBCのブランドに傷をつけるな」という方向にもっていくことは可能です。
しかし、BBCからみればこの主人公を敵に回すともっと「面倒くさい」話になることは当然想定できていたので、「面倒なことになるから」やらなかったわけです。
● 最後の「真犯人」が出てきてからの短いやり取り
・ ここは2つの論点があります。
「起訴便宜主義」 日本でもそうですが、刑事事件に関しては、仮に刑法などに触れるとしてもそれを基礎するかどうかは公的機関(日本では、検察)に一任される、という制度のことです。特に「帰責性が低い」事件について発動されることがあります(運転ミスなどでも、相手側の責任が非常に強い(相手側が酒酔い等、回避手段がないか乏しい場合)など、一方だけを起訴するのが通念上妥当でないというようなとき)。
「世間を喜ばせる事件(映画内では cause celebre )」 仮に起訴すれば、その元被告人としてこの映画の主人公をまた、裁判所の証言人として出してくることになります。しかしBBCが国営テレビであるように、国にとっては「もうこれ以上彼とは関わりたくなかった」わけで、また「BBCを無料にしろ」とか裁判で言われても困ってしまいます。このような場合(起訴することで、必然的に国にとって都合が悪かったり、面倒なことになる場合)、「世間を喜ばせる事件/証人」として、起訴そのものが回避されたり、起訴内容を変えて「都合の悪い人が呼ばれないようにする」手法が取られます。
これが映画内で述べられている「面倒なことになるから」という部分です。
※ 日本でも、某宗教のガス事件で、起訴にあたって「起訴するなら、服役している証言人を証言者として法廷に出すことが必要になるが、そのほうがかえってアピールの機械を与えてしまうのは問題ではないか」という点が問題になったことがありますね。
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実際に起きた事件なので、大阪市立図書館のレベルだと簡単にこのようなことはわかりますが、そこまで調べられる図書館も大都市にしかないですし…。
正直ムチャクチャマニアックなストーリーでした、というお話。
いやぁ、2月最後になってここまでマニアックなのが来るとは思いませんでした…。