ゴヤの名画と優しい泥棒のレビュー・感想・評価
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極めて庶民的な犯罪記録
某国営放送の受信料を出し渋り、映画を見に行く贅沢すら適わない年寄り夫婦。それでも何かを成し遂げたいのか売れない戯曲を書き続け、妙な政治活動をしてみたり。我々日本人も共感できる部分が無いことも無いけれど、名画を盗み出すような愉快犯に成り得るような逸材は滅多にいないでしょう。この映画の、楽しげな裁判の行く末が微罪で終わったエピソードを見終えた感じは、なかなか悪い気はしません。かといって、悪いことはしちゃいけませんがw
超大作では無いけれど、とてもコンパクトにまとまった感じの作品で、登場人物と共に軽くお茶とお菓子と一緒に鑑賞するには丁度良い映画だったと思います。肖像画の視線を生かした演出や、ちょっとお洒落な感じの良作です。
監督の姓が"ミッシェル"表記なのはなぜ? ともあれ、歴史に埋もれかけた真相の映画化に感謝。
Roger Michell監督はイギリス外交官の息子として南アフリカで生まれた英国人なので、姓の発音に近い表記は“ミッチェル”のはず(英語でのインタビューをいくつかチェックしたが、やはりミッチェルと呼ばれていた)。なぜ日本でフランス語風の“ミッシェル”表記が定着したのかは謎だ。
それはともかく、1961年に実際に起きた、ロンドンの美術館からゴヤの名画「ウェリントン公爵」が盗まれた事件を題材にした劇映画だ。劇中で描かれるように、盗難発生後から、「年金受給者にBBC受信料を無料にせよ!」という脅迫状、のちの裁判の経緯まで大々的に報じられたので、事件そのものは有名な話だったらしい。私自身はまったく無知だったので、事件の経緯や裁判の行方などを新鮮な驚きをもって楽しめた。終盤で明かされる“次男が真犯人”という部分は創作かと勘ぐったが、本作の英国での公開に合わせてDaily MailやThe Sunなど大手メディアが次男の真相告白について詳しく報じているので、やはりこれも事実のようだ。ただし映画にある通り、次男の起訴は見送られたため、長らく真相は明かされないままだった。Wikipedia英語版のKempton Bunton(本作の主人公)の項によると、次男が1969年に行った証言の記録は、2012年の情報開示請求で初めて公にされたという。
ケンプトンのキャラクターは、ケン・ローチ監督作で描かれるような弱者のために奮闘する清貧の苦労人をちょっとコミカルにした感じで、憎めないじいさんだ。法廷でのやり取りでは、いかにも英国人らしいユーモアで楽しませてくれる。分割画面などのレトロな表現も粋。いいものを見せてもらった。
名作「ノッティングヒルの恋人」監督の長編遺作。今見たい1961年に実際に起こった不思議な実話を描く優しさに溢れた作品。
本作はまさに今見るべきイギリス映画だと言えると思います。 それは2021年9月に亡くなったばかりの名作「ノッティングヒルの恋人」のロジャー・ミッシェル監督の長編遺作であること。 そして、本作は「1961年を描いた作品」であること。 この「1961年」というのは、まさに今「旬」な映画版「ウエスト・サイド物語」が世界的に公開された年で、本作でも主人公が奥さんを映画に誘っています。 その際の作品解説のセリフが「歌って踊る『ロミオとジュリエット』」と的確です。主人公が戯曲家を目指していることが伺えるセンスの良いセリフが多くあり、会話劇としても楽しめます。 さらには、今から61年前の「1961年に実際に起こった国宝のゴヤの名画盗難事件」の真相が分かり、この物語が、2000年以降のイギリスにつながっている、という意外な現実を俯瞰して眺めることもできるのです。 平坦なカット割りではなく、当時のイギリス映画のようなオシャレな音楽やカット割りも取り入れるなど、実話の物語として時代背景を上手く活用しています。 しかも「法廷モノ」としても面白い作品で、ロジャー・ミッシェル監督も悔いはないのでは、と思います。
観る者の口元を緩ませる絶妙な空気感
『ノッティングヒルの恋人』などで知られる故ロジャー・ミッシェル監督が遺した最期の劇映画ということで、もしかすると彼の演出が弱りゆく様を目の当たりにしてしまうのではないかと見る前は多少不安だったが、そんなことは全然なかった。それどころかこれは彼の代表作と言えるほど、賑やかで幸福感たっぷり。二人の名優を配した語り口が素敵で、60年代特有の英国の空気感もたまらない。最初は主人公の主張に誰も目と耳を貸してくれなかった状況が、いつしか逆転していく様のなんと皮肉的で、なおかつ痛快なことか。妻はそんな偏屈な夫に振り回されつつも、彼がそっと差し出すティーとビスケットにふっと表情を緩ませる・・・。かくも噛み合ってなさそうで実は硬い絆で結びついた夫婦愛が絶妙だし、二人が密かに抱えた悲しみの記憶も奥深く作品を彩る。単なるドタバタコメディではなく、庶民の”尊厳”すら感じさせる実話ベースの物語に最後まで魅せられた。
メイド・イン・UKのペーソスと反骨精神を秘めて監督は旅立った
ロンドンのナショナル・シアターにゴヤの名画"ウェリントン公爵"を展示する費用があるなら、それを日々の楽しみが少ない高齢者や退役軍人のためにBBCの受信料を無料にすべきだ。それが、名画を強奪した罪で逮捕されたニューキャッスルのしがないタクシー運転手、ケンプトンの言い分である。 1961年のことだ。盗んだことは犯罪だが、動機には共感する部分がある。そう感じた陪審員や傍聴人、そして、ケンプトン自身に、家族が抱え込む秘密も含めて、イギリス人独特の気骨とユーモアと優しさを感じて、思わず心の中で小さくガッツポーズを作ってしまった。かつて、『ウィークエンドはパリで』(13)で出会って以来、意気投合した監督のロジャー・ミッシェルと主演のジム・ブロートベントが2度目のコラボ作で目指したのは、それだろう。 そのミッシェルは映画完成後、あっけなくこの世を去った。他のどこの国でもない、メイド・イン・UKのペーソスと反骨精神をその胸に抱いたまま。ここ数年、国情と同じくその立ち位置があやふやになりつつあるイギリス映画の現状を思い起こさせる1作である。
A Funny, Literary Story in History
An I, Daniel Blake caper, the story of a bus driver, once imprisoned for not paying his TV tax, conducting a Robin Hood-style act of stealing a treasured painting from the British museum. It's the kind of forgotten tale that's perfect for a modern movie, holding a mirror to our time and seeing the parallels to an era that if not for movies we'd be compelled to think was completely unalike.
あたたかい気持ちになるいい映画でした。
NHKの受信料問題を考えてしまいました。NHKは、映らないから払わないとか、勝手にお宅の電波が入ってくるので、迷惑しているとか言って集金人とバトルしていた人がいたのを思い出してしまいました。 しかし、この主人公は、社会正義のために戦っているので共感できました。最後は英国らしい解決だったと思います。日本では、こんな判決はあり得ないと思います。 主人公一家の家族愛とても心を打たれました。この映画は、家族の物語ですね。
007が登場するとは思わなかった。
2022年3月16日(水)
吉祥寺オデオンで「ゴヤの名画と優しい泥棒」を。
大好きな「ノッティングヒルの恋人」の監督ロジャー・ミッシェルの遺作。ヘレン・ミレンが渋くて良い。
1961年、世界屈指の美術館ロンドン・ナショナル・ギャラリーからゴヤの名画「ウェリントン公爵」が盗まれた。この事件の犯人はごく普通のタクシー運転手である60歳のケンプトン・バントン。長年連れ添った妻とやさしい息子と小さなアパートで年金暮らしをするケンプトンは、テレビで孤独を紛らしている高齢者たちの生活を少しでも楽にしようと、盗んだ絵画の身代金で公共放送(BBC)の受信料を肩代わりしようと企てたのだ。
1961年のイギリスはBBC(公共放送)が有料だった。日本では今でもNHKの受信料を払わないといけないが。
梯子を掛けて登って盗むって。事実は小説より奇なり。実話ベースだが、前半は少し展開が緩い。
主人公が奥さんを誘う「「ウエストサイド物語」を見に行こう、ニューヨークが舞台の歌って踊る「ロミオとジュリエット」だ」(公開1961年)なんてセリフもある。
後半の法廷シーンからは、もう絶好調、笑って泣ける。
最後のオチに「007ドクター・ノオ」が出てくるとは思わなかった。ジェームス・ボンド(ショーン・コネリー)がちゃんと振り返っているわ。あんなシーンあったっけ?全然覚えていないわ。
さすがイギリス映画、ジョークが効いてるね。
英国の闇を描く
ゴヤの一枚の作品をナショナルギャラリーから盗み出した初老の男(実はその息子)の実話に基づいた作品で、政府に身代金を用意させ貧しい労働者階級のBBCへの受診料未払いによる刑事罰などの貧困層への弾圧を告発した作品。近年郵政システムとの不正でもイギリスで大問題となり文化相が受信料撤廃を示唆したことでも知られる古くて新しい問題。日本もBBCを参考にしてつくられたNHKは近年そのシステムが問題視されている。
テンポがよい
犯罪の裏にある個別の人間性が描かれている。/最初はN国みたいな人かと思って警戒したが、BBCを潰せ、ではなくて、BBCをみんなが見られるようにしよう、ということで全然方向性が違う。みんなの宝・ゴヤの絵はみんなが見られた方がいいよね、というのとパラレルなのである。
小粋なブリティッシュジョーク…
法廷での掛け合いも、そもそもの犯行の動機も。政府を小馬鹿にしたような。いや捕まることも厭わなかった位に真剣に市民の生活の苦しさ、煩わしさを政府に訴えた勇気ある行動なのだ。妻にそれはキング牧師、キリストに任せておけば良いと言われるのもわかるが、正義感、正に現代のロビン・フッドは許せなかったのだ。しかし、子供が真犯人だったとは。これも真実らしい。だとすると子供もロビン・フッド的な精神でやったのだろうか。全体的に軽いタッチで描かれ、気軽に見れる。
実話なの!
そしてバントンの役作りの完璧なこと。エンドロールの実物写真が主人公と似過ぎてて、実話という体の物語なのねと納得しかけたけど念のためwikiを見たら実話でした。登場人物がいいね、みんなたってて。嫌なヤツもそこまで漫画的に描かれてなくて、パン工場の上司はちょっと短絡的な描き方でしたがあれは登場時間が少ないからギリギリ許容範囲、パメラの中途半端なアバズレ感とかもホントにちょうどいい。あと何しろヘレン・ミレンです、締めるよね~。はしゃがない、いつもへの字口、いかにもイギリス人おばちゃんて感じ、見たことないけど。裁判中に書記とか判事の女性が共感の態度を示すの、もちろん気持ちはわかるしバントンのユーモアに引き込まれるのだけど、それに反応するのが女性だけってのが気になりました。
驚きの実話
公共放送BBCの受信料支払いについて、高齢の年金生活者や、国のために働いた退役軍人らは免除すべきと、市民運動ばかりか名画盗難事件まで起こした老人と家族の実話ベースの物語。
残念ながら見直しはされたものの、2000年には75歳以上無料を勝ち取ったのだから、市民から見れば、まさに英雄かもしれませんね。
映画だから脚色はありますが、ほぼ実話、ただ、終盤に007ドクターノーのショーンコネリーが問題のゴヤの絵を見つめる映画シーンの挿入は実に面白い、劇中でも犯人は国際的な犯罪組織とかエージェントなどと捜査官が語っていたのは伏線でしたか、用意周到、ジョークの効いた演出でした。
良い話
コメディちっくで、良い話でした。 ほんと助けてあげたくなる主人公とその家族です。 ただ、純粋に考えてやってはいけない犯罪ですよね。 ヘレン・ミレンは、素敵な女優であることを改めて認識しました。
他の例に洩れない「ほっこり映画」
<映画のことば> 私はあなた、あなたは私だ。 あなたが私を存在させ、私があなたを存在させる。人類は集合的なもの。私は一個のレンガで、あまり役に立たない。小さな一個だが、無限に積めば、家ができ、家は日陰を提供できる。そして、世界が変わるんだ。 初老の一人の庶民に過ぎず、息子の素行の悪さなど、家族的にも市井によくある問題を抱え、その意味でも本当に庶民的な庶民に過ぎなかったをなかったケンプトンが、その粘り強い運動の結果、ついには年金生活者について、放送受信料の無料化を勝ち取るなど、他のイギリス映画の『フルモンティ』、『ブラス!』『天使の分け前』『ウェイクアップ!ネッド』などと同様に、「社会は庶民が主役」というポリシーで、本作も貫かれた一本であったと思います。評論子は。 観終わって、気持ちが「ほっこり」という点で、充分に佳作と評することができるとも思います。 (追記) 【放送受信料問題のイギリス版?】 邦題からはまったく予期していなかったのですけれども。 しかし、いざフタを開けてみたら、なんと某国営放送の放送受信料問題のようなお話でした。 あちらの国では、本当に調査機器をクルマに積んで、テレビの有無を調べて歩いていたのでしょうか。 日本でも、某国営放送関係者は、衛星放送のアンテナが上がっているかどうか、双眼鏡を片手に実地に見て歩いているという話もありますけれども。 (追々記) 【イギリス映画なのに、いかにも東洋的な正義感?】 彼が将来を信じている息子の罪に、ケンプトンが多くを語らず、小言の一つも言うでもなく、その身代わりを引き受けたこと、本作がイギリスで製作された作品であるにも関わらず、評論子には、極めて東洋的な正義感が看て取れるようで、面白いと思いました。 「葉公 孔子に語げて曰く、吾が党に直躬なる者有り。其の父 羊をぬすみて、子之を証せり、と。孔子曰く、吾が党の直なる者は、是に異なり。父は子の為に隠し、子は父の為に隠す。直は其の中に在り、と」(論語・子路篇13/18) (葉公が自慢して孔子に、こう言った。私の村には正直者の躬という者がいて、その父親が羊を盗んだことを、子である自らが証言したのですよ。どうですか。正直者でしょう、と。 それを聞いて、孔子は、こう答えた。私の村の正直者は、そうではありません。仮に父か子かが盗みを働いたとしても、父は子のためにその事実を隠し、子は父のためにその事実を隠すことでしょう。人としての本当の正直さというのは、そんなことではないでしょうか。) 外国育ちとのことですけれども。それでもイギリス人の監督が、こんな、いかにも東洋的な考え方(正直さ)の映画を作ったことを、評論子は、面白くも思いました。 なお、ついでに言えば、裁判長の警告にも関わらず、ケンプトンに対する名画窃盗疑惑のくだんの陪審の結末か、こんなに「浪花節的なもの」だったことも、ずいぶんと東洋臭いと思われました。実際「誰でも芝刈機を返すのは遅くなりがちなものだ」という理屈がもし本当に通用するなら、今の日本でアタマの痛い刑務所の超満員問題はたちどころに解決して、これに悩んでいる法務省矯正局の幹部は、さぞかし枕を高くして安眠できるようになることでしょう。 本作はイギリス映画ということですが、そんな、いかにも東洋的な正義感が垣間見えることも、興味深いと思いました。評論子は。
ケンプトンの魅力だけで牽引する
ものすごく面白いということはないが笑えてなんだか晴れやかな気分、というか気にさせられる作品だ。物語が明るいという意味ではない。あくまで錯覚なんだな。 それは、なんといってもジム・ブロードベント演じるケンプトンのキャラクターによるところが大きいだろう。 ケンプトンは立派な人物とは言い難い。どこまで本気でどこから冗談かも分からない。ただ口がうまいだけのペテン師のようでもある。ヘレン・ミレン演じる妻はほとほと呆れているようだ。 しかしケンプトンの軽妙な語り口と飄々とした振る舞いは嫌でも惹きつけられ虜となる。愛すべきロクデナシだ。 気がつけば、ケンプトンが少しでもいい方に転ぶように応援している自分がいる。 冒頭とラストにある法廷シーンで、具体的な理由がなくとも、その場にいた人たちがケンプトンに寄り添おうとした気持ちが分かってしまうんだな。 ジム・ブロードベントはいい俳優だ。話し方がインチキくさいのがいい。 すでにレビューを書いた「キング・オブ・シーヴズ」にも出演していて狙ったわけではないがブロードベントの連続視聴になった。全く違うキャラクターで感心するんだけど、やっぱり本作のケンプトンのような道化師役が似合う。
なかなか行動的なケンプトン
ジムブロードベント扮するケンプトンバントンは、ゴヤの名画ウエリントン公爵を盗んだと裁判にかけられていた。 どこかとぼけた感じの主人公だね。この年でタクシー乗務員となはね。はたしてこのしょぼくれたおじさんが泥棒なのか。でもなかなか行動的なんだよね。盗む瞬間は観られなかったけどさ。変な人を家に取り込むからつまらん事になったのさ。
テレビの受信料問題
イギリス映画って時々凄いパンピーを主人公にした作品があるので好きだ。
一番テレビを観ているのは社会とのつながりのない年金受給者であり、その多くは国のために戦地に赴きその後は働いて税金を納めてきた人達であるのに、なぜ国営放送の受信料を取り立てるのか。
そこに有名画家が描いたか知らんが、おっさん貴族の肖像画に途方もない税金をつぎ込むニュース。
おかしくないか⁈
でもそれを言う人はこの父親以外いなかったようだ。
ストーリー展開のどこまでが事実そのままなのか知らないが、この有名絵画の窃盗事件がこの理不尽を世に訴える絶好のチャンスになり、実際に制度を変えることにつながったのが感慨深い…。
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