「私をあの頃に連れていって」BLUE GIANT つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
私をあの頃に連れていって
公開された時ちょっと気になっていたが、観る機会に恵まれずスルーしていた「BLUE GIANT」。
たまたま弟が観たいというので一緒に観ますか、となったわけだが観たがっていた弟よりも私の方が心打たれて泣いてしまった。
まぁ、音楽の良さとかよくわからないし、原作も未読、ついでにアニメファンでもない私の心を盗んでいったのは玉田と、玉田を演じた岡山天音だ。
玉田に対する気持ちは、体育会系の青春の記憶と、体当たりで成長していく玉田に対する「見守り」の気持ちの合体だったんだと思う。
ちょうど作中で玉田に話しかけるおじいちゃんが代弁してくれている。メンバーの中でド素人・ド下手だったドラムの子がだんだん良くなっていく。それがわかってしまうと、もうドラムの彼から目が離せない。
もう若者ではなくなったからこそ、がむしゃらに打ち込んで輝いていく玉田が眩しいのだ。
そして、玉田はわかっている。今ジャズに打ち込む気持ちは、大と雪祈とこの時間だけの特別な青春であることを。
だから、3人の大きな夢が叶った瞬間は絶頂であると同時に、彼の青春の終わりでもあった。勝っても負けても、叶っても叶わなくても、全てを賭けて打ち込んできたものが終わっていく。
その思いもまた、誰の心にも眠り続ける「あの時」の記憶と結びついて、玉田の思いに心揺さぶられるのだ。
玉田を演じる岡山天音は実写映画でも名バイプレイヤーとして様々な役柄を演じているが、大がアパートに転がり込む頃の「東京に馴染もうとする大学生の玉田」から「仲間に心を許して素直な気持ちをぶつける玉田」、さらにはインタビュー映像の「大との思い出をドヤる玉田」まで玉田俊二という人物の移り変わりを感じさせる、声の名演技を披露してくれた。
最初は岡山天音だと気づかなかったくらいだ。
映画は彼ら3人の「音の輝き」を視覚的にも表現していて面白かったが、逆に言えば音単体ではそこまでの「震えるほどの興奮」を出しきれなかった面もあるように思う。
まぁ、音楽には疎いのでこれは私の問題かもしれないのだけれど。
ともあれ、主人公そっちのけで青春の熱さと儚さを思い出させてくれた玉田のおかげで、熱量のある青春映画にはなったと思う。