「太平洋戦争の最末期、ソ連は日ソ中立条約を一方的に破棄し、満州に攻め...」ラーゲリより愛を込めて りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
太平洋戦争の最末期、ソ連は日ソ中立条約を一方的に破棄し、満州に攻め...
太平洋戦争の最末期、ソ連は日ソ中立条約を一方的に破棄し、満州に攻め込んできた。
終結後、現地にいた日本軍人たちは、シベリアの強制収容所において強制労働をさせられることになった。
ロシア文学を専攻し、ロシア語が堪能な山本幡男一等兵(二宮和也)もその一人であった。
戦争終結後、捕虜を抑留することは国際法違反のなか、山本らはわずかな食糧を頼りに、極寒での強制労働を強いられていたが、そんな日々にあっても山本は希望を捨てなかった・・・
といった物語。
シベリア抑留についての映画はかなり珍しく、わたしの記憶の中でも観た覚えがありません。
なので、若い人の多くはそのような事実をあまり知らないかもしれません。
映画は、強制労働の中での日々を丹念に描き、日本人捕虜たちの間に残る旧軍時代の階級制問題なども丹念に描いていきます。
国内で撮ったであろうけれど、雪中の映像も多く、過酷な撮影だったかもしれません。
山本以外にも魅力的な人物は登場します。
自分を卑怯者といって憚らない松田(松坂桃李)―彼が狂言回し的役割を担っています。
軍人気質が抜けない相沢(桐谷健太)。
軍人ではなく一介の漁師の倅でありながら漁中に拿捕されスパイ容疑を掛けられて抑留されている青年・青年(中島健人)。
元慶応野球部の4番、山本の先輩であり、山本をロシア文学の道へ誘った原(安田顕)。
それぞれに印象深いエピソードが描かれます。
そしてクライマックスは、故郷日本への帰還となるわけですが、山本は重篤な病に斃れてしまいます。
この展開がこの映画の良いところで、タイトルにあるとおり、山本はひと足早く先に日本に帰郷した家族へ向けて「愛」を残します。
斃れた山本の言葉を帰還した4人が家族に伝える・・・
派手な戦闘シーンはほとんどない映画ですが、普遍的で普通の美しい心・思いを儚くしてしまう、それが戦争だと改めて感じました。
<追記>
戦死した戦友の声を届ける映画には、今井正監督、渥美清主演『あゝ声なき友』があります。
未見なので、観てみたいですね。
昭和47年公開作品なので、まだまだ生々しい戦争の傷跡が記憶にも、実際の風景にも残っていたものと思われます。