劇場公開日 2022年9月23日

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「自然の驚異に飲み込まれてしまった夫婦の姿」LAMB ラム ありのさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5自然の驚異に飲み込まれてしまった夫婦の姿

2022年11月16日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 シュールでナンセンスでブラックな怪作。

 オープニングから得体のしれない”何か”の主観映像で始まり、完全にホラーテイストで開幕する。しかし、実際に物語が進行すると、単純にホラージャンルに括ることが出来ない、独特のタッチを持った作品であるとことが分かる。
 そもそも、このアダとは何なのか?その正体については様々なメタファーが込められており、観た人によって解釈が分かれそうである。

 自分は、この物語は人間に対する自然の驚異を描いた寓話と捉えた。いわゆる日本昔ばなしのような訓話である。
 子供がいないマリアとイングヴァルはアダを自分たちの子供にするために、ある大罪を犯してしまう。これは自然を搾取する人間の業を端的に表していると思った。最終的にその罪はマリア達に返ってくるのだが、その因果に自然の驚異という教えを見てしまう。

 もちろんこれとは違う解釈をする人も当然いるだろう。母親の名前がマリアであること、アダの誕生がクリスマスの夜だったこと、羊飼いはキリスト教では聖職者を意味していること等。これらを併せ考えれば教義的なメッセージを見出すことができるかもしれない。

 いずれにせよ、本作は説明ゼリフのようなものは一切なく、主要な登場人物もたったの3人という少なさで、作中には多くの”余白”が用意されており、そこを観客はを色々と想像させなければならない。そのあたりを楽しむことが出来れば、大変歯ごたえが感じられる作品である。

 監督、脚本は本作が初長編の新人ということらしい。
 物語の舞台を活かした幽玄的な大自然を捉えた映像が非常に印象的で、それがある種ゲテモノ映画的な側面を持つ本作に一定の風格を与えていると思った。抑制された演出もシーンに上手く緊張感をもたらしており、アダの全容を容易に見せない焦らした演出も観客の関心を惹きつけるという意味では中々上手いやり方だと思った。
 また、本作には羊や犬、猫といった動物が出てくるが、その調教もよく行き届いていて感心させられた。

 ただ、終盤のビジュアルに強く訴え出た演出は、それまでの静謐でミステリアスな語りからするといささか凡庸に感じた。丁寧に積み上げられた階段からストンと落とされたような、拍子抜けするようなオチである。

ありの