「愛の亡骸が腐臭を放ち始める時…」LAMB ラム Garuさんの映画レビュー(感想・評価)
愛の亡骸が腐臭を放ち始める時…
亡き娘への思いを断ち切れずにいる夫婦。 高山で牧羊を営む二人の日常は、それでも平穏に見える。 しかし、受け手を無くした愛は、もはや魂を失った肉体と同然。 腐敗し、変質していく。 執着してはならなかったのだ…。
腐り始めた愛は、喪失感に形を変えて二人の心の中に留められていた。 そんなある日、その腐臭に引き寄せられるように、悪魔が近づいてくる。 あまりにも深過ぎた娘への愛の亡骸は、悪魔の誘惑に簡単に惑わされ、歪んだ欲望へと変質してしまうのである。
作品の核には、宗教的なメッセージが据えられているように見える。 最後に出てくる、おそらく羊ではなく山羊の化身は、サタンの具現化だろう。 ラストカットは演劇的で、人間の業の深さを感じ入らせてくれる終わり方だ。 画面は、終始灰色がかったトーンで覆われており、行き場を無くして彷徨う夫婦の心象を、過不足なく写し出していた。
決め手になっているのは、見事な特殊映像である。 子羊のアダちゃんを、ここまでリアルに愛らしく表現できたからこそ、この作品が成立したと言っても過言ではないと思う。 一方、この物語の中心人物となるのは、母親マリア役のノオミ・ラパス。 彼女の繊細で起伏に富んだ感情表現も素晴らしかった。
バルディミール・ヨハンソン監督の長編一作目ということだが、全体的に統一感があって、かなりの出来ではないだろうか。 もはや異常をきたしてしまっている夫婦の精神状態を、夫の弟を介在させることで浮き上がらせるあたり、脚本もうまく練り上げられている。
純粋なホラーとは言えないが、人間の奥深い部分を見せられるという点において、非常に怖い映画である。
愛と欲望は、表裏一体。
親の愛といえども、またしかり。