「☆☆☆★★★ 他人の自伝映画でありながら、監督の想いが詰まった私小...」tick, tick...BOOM! チック、チック…ブーン! 松井の天井直撃ホームランさんの映画レビュー(感想・評価)
☆☆☆★★★ 他人の自伝映画でありながら、監督の想いが詰まった私小...
☆☆☆★★★
他人の自伝映画でありながら、監督の想いが詰まった私小説ミュージカルでもある。
「ソンドハイムは27でブロードウェイデビューした。それなのに、僕は一体何をしているんだ!」
芸術家やアーティストの焦りには際限がない。
あの手塚治虫にして、売れている若手の漫画家の作品を担当編集者に向かい「これのどこが良いのか教えてくれ!」
(正確ではなく、伝わっている雰囲気から)
…と、普段から喰いついて来たとゆう。
手塚治虫はまだ人生の大成功者だからまだ良いとして。一方で此方は、毎日毎日あくせくして働いたところで大した身にもならない日々。
最早、人生に於ける目標もなくなり、ただ漠然とした日々を過ごしているだけ💧
話が脱線してしまうので映画の方に戻して、、、
映画の内容は、『RENT 』でブロードウェイでスーパーヒット…いや、特大ホームランを叩き出した、ジョナサン・ラーソンが世の中に認められる前の奮闘物語。
作品全編で描かれるのは、彼の作品製作にあたっての苦悩と、彼を取り巻く周囲の人々の友情。そして彼が愛した女性との関わりが、如何に彼の代表作となる『RENT』と深く関わっているのか?を。彼の作品を愛し、目標とし、成功を掴み取った《監督》リン=マニュエル・ミランダが恋文をしたためるかの様に、慈しみながら演出に専念している。
映画の流れとしては、ラーソンの幻のブロードウェイデビュー作品になるはずだった『スーパービア』から『chick、chick…boom!』へと移行するに至った経緯は何故か?
その経緯の間に、同じ夢を共有していた仲間たちが目標変更した事での孤独感であり。当時はまだ得体が知れなかったHIVで、志半ばで亡くなっていった友人達への鎮魂歌。
作品の中で『RENT』に関する作品作りは描いてはいないものの。ラーソンが『RENT』に到達した経緯が描かれる。
※ 映画自体に描かれるので書き込んでしまうのだけれど。ラーソンは『chick、』でブロードウェイデビューを果たし、次の『RENT』で飛ぶ鳥を落とす勢いのミュージカル作家になるものの、その成功を自らは体験出来なかった。
何故なら、『RENT』の初日の直前に彼は亡くなったのだから。
ラーソンは、同じくブロードウェイミュージカルに於ける伝説のミュージカル作家であるローレンス・ハートと同じ運命を送ってしまったのだ。
映画本編は、そんな『スーパービア』と『chick、』の視聴会(さしずめ現代ならクラウドファンディングに近いのだろうか?)で、資金出資者を募るに辺り、より良い曲を作ろうとするも思い通りに行かずに苦悩する姿を、時間軸を何度も交互に入れ替えて描く。
どちらもラーソンの友人達が撮った映像が残っており、それを基にしている為、違いがはっきりと分かるのだが。最初に記した様に、私小説風味の演出である為か。ラーソン…特に『RENT』に対して思い入れの強い人。又は、リン=マニュエル・ミランダに関心のある人以外(例えばハリウッドの大作映画であり、エンターテイメント性のある作品を好む人々)にはなかなか浸透しづらいのでないだろうか?
おそらく監督自身も、「僕と同じく『RENT』を愛している人にだけ理解して貰えれば、それだけで僕は満足なんだ!」(勿論、本人はそんな事は言ってはいない。作品を観た此方の単なる思い込み)…と、思っているのではないだろうか。
『スーパービア』は好評だったものの、作品の完成には至らなかった。
だからこそ新たに『chick、』は生まれ、それをきっかけとして『RENT』の成功をも生み出した。
まさに、『バンドワゴン』に於ける♬ プランを変えよう ♬ の良い成功例でもある。
ミュージカル作家を目指し大成功を収めた監督の『RENT』に対する想いの強さ。
それを作ったラーソンに対しての尊敬の念と、ラーソンの作品作りに深い関わりがあった女性を、ラーソンに変わって深く愛する感情の昂り。
それらを、作品本編を作る事での監督自身が、恋人の様に想い抱いていた作者へのラブレター。
映画全編でラーソンに対する愛に溢れている作品でした。
プールの場面でのファンタジックな演出はとても良かった
※ レビューを書き込んだ後にWikipediaを確認したところ。ラーソンの実質的なブロードウェイデビュー作品は『Saved! - An Immoral Musical on the Moral Majority 』であるのを知りました。
自戒を込めて訂正します。
2021年11月28日 シネリーブル池袋/スクリーン1