「若くして成功を手にしたいと願うすべての若者たちへ」tick, tick...BOOM! チック、チック…ブーン! 清藤秀人さんの映画レビュー(感想・評価)
若くして成功を手にしたいと願うすべての若者たちへ
1990年代のニューヨークで、自作ミュージカルを評価され、ブロードウェーで華々しく活躍することを夢見ている若者がいる。しかし、現実は厳しく、恋人は結婚してニューヨークを離れたいと言うし、同業の親友はビジネスで成功を収め、パワーエリートとして羽ばたく一方で、仲間の1人はHIVに感染してしまう。切り取る時代は限られているが、主人公の焦りは時代や国籍に関係ない。30歳になる前に成功を手にしたいのに、時間は刻々と過ぎて行く。そんな追い詰められた思いが、タイトルの「tick ,tick ...BOOM!」には込められているのだ。
同名の舞台を制作したジョナサン・ラーソンはやがて、代表作『RENT レント』で希望通りブロードウェーを制覇する。世界各国で上演された傑作ミュージカルとして語り継がれる作品だ。そのことと、ラーソンを待っていた過酷な運命とを重ね合わせると、改めて、人生とは時間との闘いであること同時に、かくも儚いものかと思ってしまう。
そんな切ない物語が、これが監督デビュー作のリン=マニュエル・ミランダによるダイナミックな演出と、ラーソンの夢と挫折をそれこそ体から絞り出すように演じ、歌うアンドリュー・ガーフィールドによって映像化された本作。彼らがターゲットにしているのは過酷な時代を生きる、それからもしばらく生きることになる若者たちだ。ミランダとガーフィールドは共に本年度映画賞のフロントランナーである。
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