「切ない」マイスモールランド 正山小種さんの映画レビュー(感想・評価)
切ない
難民申請のクルド人の物語ということで、東京クルドの焼き直しかもと思って見に行きましたが、全く違っていました。こちらは、母国から難を逃れて来日したディアスポラのクルド人を父に持つ高校生のサーリャにスポットを当てた切ない物語でした。外国人に対する差別の強い日本という国で、在留資格もなく生きることがいかに大変なことかがとても良く描かれていました。
物語は、日本に住むクルド人新郎新婦の結婚式から始まりますが、そこにはクルド人新郎新婦を祝福する親戚・知人らしきクルド人がクルドの歌を歌っているという、クルドてんこ盛りの映像で、ここが日本であることを一瞬忘れてしまいました。
そして、この結婚式の際に、サーリャは自分よりもかなり年上らしき男性が自分の将来の夫になると告げられるわけですが、本人の意思などまるで無視した、なんともマッチョな考え方に驚かされます。もちろん、父親として娘の結婚と幸せを考えてのことなのでしょうが、現代日本に生きる私たちからするとねえ……。日本に住みながら、日本人と交わることなく、クルド人同士でクルドの伝統的な考え方を守ろうとする姿は、日本社会から排斥されているのか、自分たちの方から日本社会と距離を置いているのか判断に少し悩んでしまいます。ラーメン、音を食べていいじゃんって。
ただ、このようなクルド人であることにアイデンティティを求める移民第一世代と違い、日本で生まれたわけではありませんが、学校教育等を日本で受けたサーリャはやはり第二世代的で、クルド人ということにアイデンティティを求められないのだろうなと見ていて感じました。コンビニでのバイト中に自分がドイツ人だと言うあたりにも、それが現れている気がします。もっとも、そこには、ヨーロッパの人たちは偉いけれども、アジアやアフリカ等の欧米でない人たちは自分たちよりも下だと思う、日本人の嫌らしさの影響もあるのかもしれませんが。クルドって言っても、「なにそれ? 美味しいの?」って反応ですからね。
そしてこのコンビニのバイトの同僚である聡太と互いに意識し合うようになり、自分のクルド人としてのルーツを話すサーリャ。小学校の先生になりたいという夢を持つサーリャと、大阪の美大に通いたいという夢を持つ聡太。この二人には是非とも夢を叶えてもらいたいと思っていた矢先に、サーリャの父の難民申請が不認定になり、在留資格のない仮放免許可での生活を余儀なくされる訳ですが、どうして彼女がこれほどまでの苦労を強いられるのか、見ていてとても辛くなりました。特に、父親が仮放免の条件に違反して働いていることがバレて入管に収容されるようになった後には、大好きな聡太と距離を置こうとするなど、実に切なかったです。埼玉から出てはならず、バイトもクビになり、聡太の母親についても、自分のことが原因で聡太の心配をしていると聞かされ、自分には居場所がないと感じていたことでしょう。
サーリャ目線からすると、コンビニの店長のおじさんも聡太のお母さんも酷いとは思いますが、サーリャを雇い続ければ不法就労助長罪で捕まる可能性もありますし、お母さんも聡太には在留資格に問題のある人よりは、問題のない人と付き合ってもらいたいでしょうから、親としては当然の愛情なのでしょうね。親の愛情という点では、自分が帰国することで、サーリャにビザが出るのかもしれないと、その可能性にかけて、帰国を選択しようとするお父さんも、やはり娘を愛しているのだなと感動しました。ラーメン、音を立てて食べていいよって。ラーメン食べるシーン、このシーンのためのフリだったんですね。
親の子に対する愛情、子の親に対する愛情、女の子と男の子の恋心。色々と愛に溢れる映画でした。途中、パパ活のシーンで、サラリーマンのおっさんが金を払ってハグしようとしてましたが、家庭の中でちゃんとした愛のある環境が築けていないのかもしれませんが、見ててキモイの一言でした。勘弁してほしいものです。
最後に、父の難民申請について不認定の結果が告げられるシーンですが、裁判ができるというくだりを最後に持ってきたかったからでしょうが、結果の告知の段階で、不認定の理由を告げてない上に、審査請求ができることや、裁判所に訴えることできることを教示しなかったのは、有り得ないことだと思いました。
ところで、お父さん、最後のシーンで入管の面会室から出ていく際、ペルシャ語しゃべってませんでした? なんかペルシャ語だった気がするのですが。