夢の涯てまでも ディレクターズカットのレビュー・感想・評価
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5時間になるべくしてなった作品
長いなーでもヴィム・ヴェンダースだから観ておかないと…なんて大して期待もせず観たら、ベルリン天使の詩を超えて個人的最お気に入りとなりました。
ヴィジュアルももちろん美しいです。写真集があれば欲しい。
ひたすらまっすぐなクレアを取り巻く、様々な立場、様々なバックグラウンドをもつ人間たちが、お互い追ったり追われたりして、それこそ世界中を飛び回るのだけど、そのうち当初の目的とか皆どうでもよくなって、大自然の中でバンド組んで楽しくライブしちゃうシーン、よかった、とても。
ここらへんを境に、物語はまた一気に、邦題の、本当に意図する方向へ展開。未来(いま現在のこの世界)を予想したかのようなダークな色を帯び、はたまたこりゃどうなるかと最後まで飽きさせません。
最後は途中で別れた仲間たちがクレアの誕生日を祝う。まさにオンラインバースデーパーティー。ホロリとさせられ、長丁場の疲れも忘れます。
先進国では科学の進歩にばかり夢中になり、人々は自分たちが脆い生き物であることを忘れている。
自然と共生するアボリジニのコミュニティがそんな人々をあぶり出し、癒やしていく。
つい最近になって、もっと人間らしく生きようと世の中が言い出したと思っていたけど、もう30年以上も前にヴィムは警鐘を鳴らしていたのか。
クレアを愛し、護り続けたジーンの一人称で語られる、人種も国境も超越した壮大な物語。
ああ、観てよかった。
【考察: 僕たちは見えているか】
そういえば、随分前になるが、カナダのケベック州で、(おそらく)太陽フレアによる大停電が起きたことを思い出した。
僕たちの身の回りのものが、ほぼほぼ、AIも含めて電子化してしまって、いつか大規模な太陽フレアで、世界中が機能停止してしまうような日が来るかもしれないのだ。
申し訳ないけど、SFチックで、ちょっと、ワクワクする。
ところで、手動運転っていうのは、マニュアル運転って字幕で訳す方が良いと思うんだよな。
(以下ネタバレ)
この作品の途中休憩までの前半部分は、ちょっと珍道中っぽい。
笠智衆まで登場して、ヴィム・ヴェンダースの小津安二郎への敬愛っぷりも垣間見られるが、笠智衆演じる箱根の旅館の親父さんの「目で見るものと、心で見るものは違う」という言葉が、作品を通して、意味があるように感じられる。
前半部分では、意図的にだとは思うが、訪問した国の状況をステレオタイプに見せることによって、僕たちは、知ったかぶっているだけで、世界のことを、実は、ほとんど見てもいないし、知ってもいないと示唆しているような気がする。
「東京画」にもあったパチンコ屋の場面や、竹の子族チックな服装も、そうした意図で演出されたのではないのか。
「心で見る」とは、よく考えて見て、理解するということだろう。
そして、この作品の後半部分は少し入り組んでいる。
盲目の母親のために作られたことになっている視覚イメージ転送装置は実は、視覚的経験のイメージ転送装置だ。
見て、記憶が鮮明なものだけをイメージ化出来るのだ。
つまり、記憶が重要な役割を果たしているのだ。
見えていると信じているものは、実は自分の記憶が頼りなのであって、客観的なものでは決してない。
そして、アボリジニーの集団と、現代欧米人の個人を対比させることによって、記憶とは何か、変化するとは何かを提示しようとしているように感じられるのだ。
アボリジニーが、口伝や歌で残してきた有史以前からの記憶。
個人が、手放すことが出来ないどころか、執着して囚われてしまう記憶。
アボリジニーの集団の記憶は、生きていくために集団で蓄積された知恵であり、ある意味、客観的だと思われるが、現代人の個人の記憶は、実は都合よくピックアップされていて、イメージとして映像で回収されるされる「夢」は、"改ざん"された記憶なのかもしれないのだ。
そして、夢に囚われてしまうクレアや、サム、ヘンリー。
母親に映像を見せたいと考えていたことなど嘘のようで、調和など、どこにも見当たらない。
しかし、冒頭から、クレアに付き添おうとするジーンと、ジーンの回想の小説を通じて、"運よく生き残った"人間は変化を受け入れ、夢に囚われずに前に進むことが出来るのだと気付かされる。
ふとしたことで彷徨ってしまう人の心、つまり、クレアの心と、それに寄り添おうとするジーン。
クレアを元に引き戻したが、しかし、クレアの元を敢えて離れるジーン。
ヘンリーの墓の前で、取り返しのつかないことをしたと知るサム。
この3人の対比も示唆的だ。
多数の核ミサイルへの懸念が広がっていた世界で、核エネルギー衛星の墜落・撃墜という状況を設定し、こうしたことを人類は回避できるのだと示しているところもきっとある。
僕たちは、果たして、この映画作品を、考えて観ることが出来ているのだろうか。
そして、想像することが出来ているだろうか。
実は、これが、この映画の最大のテーマかもしれない。
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