「【”これが、私の人生・・。”彼(彼女)は自分の人生を遡りながら、自分がゲイカルチャーを謳歌した町一番の金持ち女性の死化粧をする旅に出る。鬼才ウド・キアー、遂に名優の域に達したと思った作品である。】」スワンソング NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”これが、私の人生・・。”彼(彼女)は自分の人生を遡りながら、自分がゲイカルチャーを謳歌した町一番の金持ち女性の死化粧をする旅に出る。鬼才ウド・キアー、遂に名優の域に達したと思った作品である。】
ー ウド・キアーと言えば、私にとってはどんな映画のどんな役でも引き受ける顔の怖い超脇役というイメージがあった。
近年で言えば「アイアン・スカイ 第三帝国の逆襲」である。他にも、彼の経歴を見ると、”絵、この映画にも出ていたっけ?”と言う程の出演作品選択の幅広さである。
で、今作で彼は見事にゲイの老ヘアドレッサーとして主演を張り、演じきったのである。-
■老人ホームで余生を送っていた元ヘア・ドレッサー、パトリック(ウド・キアー)の元に、ある日弁護士が現れる。町一番の金持ちで町の発展に寄与してきたリタ(リンダ・エヴァンス)が亡くなり、遺言書には”死化粧はパトリックに・・”と記されているという。
多額の報酬(2万5千ドル)も提示されるが、パトリックはその申し出を断る。
何故なら、リタは長年パトリックの顧客だったが、パトリックの一番弟子ディーディーが独立し、パトリックの店の反対側に店を出した時に、ディーディーの店に鞍替えしたのだ・・。
◆感想
・それでも、パトリックは悩んでいたのだろう。施設の煙草仲間の女性のヘアーセットをしてあげて、腕が落ちていない事を確信した彼は、施設を抜け出し町の中心部に向かう。
ー 途中では、且つて深く愛したデヴィッドの墓に詣で(その墓には、パトリックの名も刻まれている。)蹲り抱くように墓を抱く・・。ー
・更に、既に死んでいる筈のゲイ仲間の男を呼び出したり、且つて頻繁に通っており、金曜日の晩にはステージにも立っていたゲイバーに立ち寄ったり・・。デヴィッドと暮らしていた家を訪れたら、更地になっていたり・・。
ー 且つて、彼が愛した町の風景は激変し、ゲイカルチャーは風前の灯。ショックを受けながらもリタの家に辿り着くが・・。
印象的なのは、パトリックの事を町の年老いた人達の殆んどが知っており、温かく迎える姿である。彼に衣装一式を与える服飾店の且つて彼にヘアードレッサーをしてもらった女性、ディーディーも驚きつつ、彼に年代物の美容用品ヴィヴィンテを差し出す姿。
彼が、如何に皆に愛されていたかが、良く分かる。-
■白眉のシーン
・ディーディーが諦めたリタの死化粧をパトリックが見事にやり切り(ここの美術が凄い。)、リタの孫の口から出た言葉。
”悩んでいた事があるんだ・・。そしたら、お婆ちゃんが”そんな事、何でもないわよ、私の親友だってゲイなんだから・・”と言ってくれて、僕は救われたんだ・・。”
その言葉を聞きながら、足を組み、悠然と紫煙を燻らすパトリック。
そして、その手から煙草が落ちる・・。
<劇中流れる歌の艶やかさに合わせたかのような、ウド・キアーの口から出るお姉言葉や、身のこなし・・。
鬼才、ウド・キアー。今作にて遂に名優の域に達したなあ、と思った作品であった。>