「喫煙姿かっこいいオブザイヤー」ヴェラは海の夢を見る デブリさんの映画レビュー(感想・評価)

喫煙姿かっこいいオブザイヤー

2021年11月10日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

主人公のヴェラは幼い孫がいるぐらいの女性なんだけど、夫は急死するわ、やっと売れると思った不動産は親戚に奪われそうだわ、娘には嫌われてるわ、いろいろ大変。憤りや悲しさや恐怖を押し殺して喫する煙草の味がそれはもう苦そうで。特に、高速道路の建設現場をバックに吸ってる横顔が印象に残った。

タイトルにもなってる「海の夢」の描写はあまりいいと思わなかった。こういう心情をそういう夢で表すの普通すぎて、監督ここはどうしたんだろうと思ったぐらい。

テレビ局で手話通訳の仕事をしているヴェラの無表情さがそこはかとなく笑いを誘う。声に出して笑いはしないけど。

映画の9割がたは、クズな男たちにムカつく時間なんだけど、ちゃんとカタルシスはある。ヴェラと娘が車内に二人のシーンで、胸に温かいものが一気に満ちた。

余談だけど、向こうの人は着るものが素敵。お金が苦しい(という設定の)人も、古いものを着ているな、いつも同じものを着ているな、という印象にはなれど、そのどれも最初から500円だったものには見えない。ファストファッションの波が押し寄せてないだけのことかもしれないけど、そんなところから文化的な豊かさを感じる。ヴェラのコートも物がよさそう。

コソボの映画って初めて観たかもしれない。こういう出会いがあるのが映画祭のいいところ。今年の東京国際映画祭で私が最初に観た一本。終わってみればグランプリを受賞したということだった。

デブリ