「いろいろと惜しいが、日本ではありえない、ある国の日常の現実を描く良作。」母の聖戦 yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)
いろいろと惜しいが、日本ではありえない、ある国の日常の現実を描く良作。
今年28本目(合計681本目/今月(2023年1月度)28本目)。
内容的に結構地味なところもあり、大阪市で扱っている映画館は1つだけ。その理由があるのか、あるいは他のメディアで取り上げられたのか、100人ほどのミニシアターで4割埋まりほどといった「そこそこ」の入り方です。
公式HPなどで触れられている通り、メキシコにおける「誘拐ビジネス」を扱った内容です。一見ドキュメンタリーのように見えますが当然作話の範囲…と思いきや、実際にあった事件をもとに(後述通り、このような事件はメキシコでは当然のように起きている)つくられています。一方、ストーリーを淡々と描くだけで、公式サイトその他にある「誘拐ビジネス」を描くことはわかっても、それを批判的に描くのかどうなのかという点が映画内ではっきりとせず(おそらく、製作国であるところのメキシコ政府から何か言われた?)、そこは類推するところがあります。
ただ、多くの方は公式サイトを見ていなくても、語として明確に出てこなくても、いわゆる「誘拐ビジネス」が論点にあるのだろう、ということはわかると思います。
ただ、一歩踏み込んで考えたとき、なぜメキシコ(など)で誘拐ビジネスが当たり前のように起きるか、です。
一般的に犯罪には刑罰がつきます。したがって、犯罪をおかすものにとっては、その「リスク」と「リターン」を考えることになります。また、国家(司法)は刑法を策定したり刑務所を作るといったことだけでなく、「そのような犯罪を起こさせない国・社会づくり」ということが求められ、その「せめぎあい」となるわけです。
そこで、なぜメキシコなど(南米に集中しているのが特徴で、ほか、アルゼンチン、コロンビア等)でこれらが見られるのかと考えると、
・ 自動車が(お金と免許があれば)購入できるだけの経済力があり、また公道等も普通に存在するか
・ 「ローリスク・ハイリターン」かどうか(逆にハイリスク、ローリターンな行為はどこでも誰でも普通はしません)
・ 司法や警察行政など、取り締まる側が事実上存在しないか、癒着していたり、あるいは捜査技術等が低く事実上機能していないといえるかどうか
・ 一方で、職業につきたいと思えば(ある程度は制約はされても)選べるほどに経済力が豊かな国か(失業率が30%とか40%とかと言われたら、やる気があっても何もできません)
…という4つの論点があることがわかります(参考:大阪市立図書館など)。
車すら購入できないような最貧国(主にアフリカなど)では、そもそも「車を使った誘拐ビジネス」自体が成立できません。また、日本やお隣韓国、アメリカのように、(賛否両論あるとはいえ)監視カメラが多くあるいわゆる「監視社会」が成立しているか、また(これも賛否両論あろうかと思いますが)いわゆる「スピード違反取締カメラ(ビデオ)が高速道路などに多く設置されているか」といったことがこの「誘拐ビジネスが行えうるかどうか」という「実は最も大きいポイント」になります(まさか自転車で、とはなりませんし、日本はご存じのようにあちらこちらにあるので、やるだけ無駄という以外の何物でもない)。
そこで、「車は買えるし道もあるが、そうした監視カメラや高速道路の追跡システム等はまだ整備されていないか、その途中」といった国において成り立つのだ、ということがわかります(証拠が残らないので検挙がきわめて難しい、など)。こうした国は限られていて(アフリカの多くの最貧国クラスだと、「車すらそもそも購入が困難」だし、インドレベルの発展途上国だと普通に監視カメラが多くあるので、やはりできない)、そうした国において特有で、それがたまたまメキシコであったり、アルゼンチン等数か国に限られるのです。
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(参考/短時間誘拐(express kidnap)について)
外務省の当該国(当然、メキシコ含む)の注意喚起として、この犯罪の特徴の「ローリスク、ハイリターン」をさらに推し進めて「超ローリスク、ミドルリターン」化したものに、「短時間誘拐」があげられます。1日限りの誘拐で、日本と同じようにATMで1日にカードでおろせるお金には(設定を変えないかぎり)通常限界があるので、その限界額(メキシコでは6000~7000ペソが多い模様。7000ペソでおよそ16500円程度)まで要求するという、まさに「超ハイスピードで、すぐにはじまってすぐに終わる誘拐」もあります(参考:外務省)。
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これらのことは映画はおろか公式サイトには何も書いていませんが、こうした発展的知識も持っていないと、映画自体の主張が少ないので(上記通り、おそらく政府からケチがつくんでしょうね…)、そこは調べる必要があります。
採点に関しては以下の通りです。
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(減点0.3/趣旨は理解しても、やや説明不足な点は否定できない)
何度も書くように、この映画の背景や問題提起が何も明示的にないのは、おそらく当該国(この映画はメキシコを含む数か国の合作映画)の政府からの干渉その他だとは思うのですが、それでもあるかないかではかなり違います。
ただ、ここまでの知識を前提とするかはどうかとしても、一般的にいう、いわゆる「誘拐ビジネス」の論点がある、ということは多くの方にはわかりうると思いますし、ミニシアター中心である以上、行かれる方はある程度調べていかれるのであろう(私もそうしました)という点では減点は(作者側に裁量権が少ないのであろうと思える現状は)限定的です。
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