「「放っておけ。死ぬまで苦しませるんだ」」モスル あるSWAT部隊の戦い かせさんさんの映画レビュー(感想・評価)
「放っておけ。死ぬまで苦しませるんだ」
荒廃したイラク第二の都市モスルでの、たった半日の戦いを描いた、実話を元にした一人の戦士の成長物語。
【ストーリー】
モスル警察の若き刑事カーワは、イラクを跋扈する武装組織の襲撃にあい、同僚の叔父を殺されてしまう。
崩れかけた建物におしこめられ、集中砲火の絶体絶命状況を救ったのは、ドクロのペイントをしたハンヴィーの男たち。
彼らは全滅したはずの、この町のSWAT(特殊火器戦術チーム)だった。
肉親を殺されたカーワを、彼らはチームにスカウトする。
だが共に行動するカーワに、彼らはなぜかその作戦内容を伝えようとしなかった。
町のあちこちではダーイッシュ(IS=イスラム国)の戦闘員たちが白昼堂々市民を虐殺している。
親を殺され次々と孤児がうまれ、その子たちも死んでゆく。
偶然ダーイッシュの拠点を見つけたものの、SWATたちも仲間をやられその数を減らしてゆく中、攻撃はおろかその蛮行を止めることすらできない。
果たして彼らはいかにして町を荒らすダーイッシュたちに対処するのか。
そして、警察上部の命令に逆らい町中で戦いつづけるその理由とは。
まず目につくのは戦闘シーンのシビアさと生々しさ。
敵味方に容赦のない攻撃が浴びせられ、撃たれたものたちはドラマチックなセリフも残せずただ無惨に死んでゆきます。
街から逃げるものたちを女子供容赦なく射殺する敵のスナイパーは、まだ少年のように幼く、それを突撃して射殺する主人公たちもまた彼らに一切の慈悲を見せません。
仲間と思っていた麻薬捜査官はカーワたちをうらぎり、捕虜として会うと恩を着せながら命乞いし、自分の家族が人質に取られていると泣きわめく。
手に入れたRPG(ロケット推進榴弾)は不発を起こし、射線を横切る仲間を誤射し、手榴弾は送電用の鉄塔に跳ね返って仲間を殺傷する。
アクション映画では当たり前に上手くゆく攻撃が、思いもよらないトラブルにより味方を傷つけてゆく。
それらは娯楽アクションではまず描かれない、銃火器を使った現場で実際におきている事故なのです。
※
この映画を見る方々に、一つだけ補足しておきたいのは、SWATという部隊のこと。
彼らは重武装して危険な任務をこなす戦闘の専門家ですが、軍隊ではありません。
警察です。
その存在意義は脅威の排除ではなく、あくまで市民を守ること。
本来なら犯罪者の命をも尊重する部隊なのですが、廃墟となった街で彼らの武装や物資、行動のための資金をその敵から奪っています。
これは、発覚すれば断罪必至の違法行為です。
作中でモスルに潜入していたイランの特殊部隊(こちらは軍隊)との物々交換で、相手が使っていたのは欧米の軍隊でNATO弾と呼ばれているもの。
対して欲しがっていたのは彼らの使うAK-47、通称カラシニコフと呼ばれている銃の弾。
後者の方が破壊するエネルギーが強いのですが、そこらの金属加工場でも作れるような大雑把な構造で、精密さには欠けます。
警察ながらそんな銃を使わなければならないSWATたちの苦境と、彼らが口にしたがらない作戦目標。
それが語られた時、この悲しくも勇ましき男たちの本当の存在意義がこちらの心に届くのです。