「伝統西部劇×現代ヒップホップ音楽=永遠の荒野へのラブレター」ザ・ハーダー・ゼイ・フォール 報復の荒野 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
伝統西部劇×現代ヒップホップ音楽=永遠の荒野へのラブレター
タランティーノの『ジャンゴ 繋がれざる者』は黒人が主人公で最終的に敵役が黒人であったが、本作は登場人物のほとんどが黒人。
そこに、ヒップホップ音楽が軽快に流れる。
話はありふれているけど、斬新なブラック・ヒップホップ・ウエスタン!
無法者のナット・ラブ。
彼は幼い頃、悪党のルーファス・バックに目の前で両親を殺され、自身も額に傷を付けられた。
以来、手の甲にサソリの刺青があるルーファス団を捜し出し、復讐を続けている。
そんなある日、最大の復讐の相手、獄中に居る筈のルーファスが放免になるという…!
ナットはかつての仲間と共に、ルーファスへの復讐と決戦に挑む…!
話は分かり易いほどの王道復讐劇。
西部劇はこれでいい。これでこそ西部劇。
要所要所、美味しい所がいっぱい!
まずは、実力派黒人俳優たちが演じるクセ者キャラたち!
復讐に生きるクールな主人公、ナット。演じるジョナサン・メジャースはお初かなと思ったら、『ザ・ファイブ・ブラッズ』に出ていた事を思い出した。
同作で共演したデルロイ・リンドーも連邦保安官役で出演。場を引き締めてくれる。
ナットの元恋人でバーの経営者、メアリー役のザジー・ビーツが美しく男勝り。
彼女の店の腕っぷしの強い女用心棒、カフィー役のダニエル・デッドワイラーが印象的。
ナットの旧知であるビルとジムはそれぞれシリアス&お笑い担当。
次は、ルーファス団。
ナンバー2とでも言うべきトゥルーディー役のレジーナ・キング。メアリーと対し過去を話すシーンが非常に印象残る。
あちらの自称“西部一の早撃ち”がジムなら、自称せずともその名が西部中に知れ渡るチェロキー・ビル。『ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償』でのオスカーノミネートが記憶に新しいラキース・スタンフィールドが知的にクールに。
だけどやはり圧倒的な凄み、存在感を放つのは、ルーファス・バック=イドリス・エルバ!
OPのナットの両親を殺すシーン。顔を見せず、背中だけ。両手には金ぴかの拳銃。これだけでただ者ではないと思わせる。
トゥルーディーやチェロキーが護送列車を襲撃し、いよいよ登場。
自身の町に舞い戻り、裏切り者をボコボコに粛清し、町人から税金を搾り取る。
歯向かう者、役に立たぬ者は容赦なく殺す。
悪党ならぬ夏に出演した某作品のタイトルに掛けて、“極悪党”!
クールだったり、個性的だったり、一癖あったり、ユーモアあったり、恐ろしかったり…。
でも、強烈キャラが織り成すアンサンブルにワクワク興奮必至!
プロデュース兼任のラッパーのジェイ・Zによるヒップホップ音楽。
伝統的な西部劇と現代的な音楽のコラボ。
これが見事に成功。必聴!
ノリのいいヒップホップ音楽が、特にクライマックスのアクション・シーンを最高に盛り上げる。
全編の音楽全てではなく、かつての西部劇風のオマージュ音楽も。
そのメリハリも魅力。
邦画でも時代劇にJ-POPが使われた作品があったかもしれないが、才能やセンスの違いかな…。
派手なガン・アクションの見せ場もたっぷり。
馬に乗って荒野を駆ける。これこれ、西部劇はこれが無いとね!
カメラワークもカッコいい。
黒人映画という事は、人種差別もチクり。それをユニーク痛快にやり返す銀行強盗。
ジェームズ・サミュエルはミュージシャンらしいが、本作で映画監督デビュー。素晴らしい才能!
あくまでエンタメに徹しているが、ラストのドラマチックな展開にも唸った!
そういや、何故ルーファスがナットの両親を殺したか説明されていなかった。
遂にそれが、ルーファスの口から明かされる。
それは、あまりにも衝撃的なものだった…。
ネタバレチェックを付けるので触れるが…
ルーファスは暴力的だった父に復讐する為、ずっと父を捜し続けていた。
そしてやっと見つけた父は改心し、新しい家族と平和に暮らしていた。
ルーファスは父とその妻を殺し、“弟”の額に傷を付けた…。
ルーファスの最終的な復讐。それは、ナット=本名“ナサニエル”を復讐鬼し、父と同じ野蛮人に貶める事。
復讐したい。でもすれば、ルーファスの手中にまんまとハマる。
復讐しなければ…。これまで自分が歩んできた血の道は何だったのか…?
ナットの決断は…?
王道だけど斬新!
ドラマチックで痛快!
極上のエンターテイメント!
とっても面白かった!
西部劇が廃れていると言われているけれど、今年初めには『この茫漠たる荒野で』があり、今度は本作が我々の心を駆ける。
海外の人が時代劇に憧れるのと同じように、日本人であっても西部劇が面白い。
永遠の荒野。