劇場公開日 2021年12月17日

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「姉妹だからこその距離感の中で気づけば何も知らないことへの怒りと不安が事態を思わぬ方向へ……」偽りのないhappy end バフィーさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0姉妹だからこその距離感の中で気づけば何も知らないことへの怒りと不安が事態を思わぬ方向へ……

2022年1月20日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

今作の松尾大輔監督から、直接試写の招待をしていた作品だからといって、忖度する気は全くないのだが、個人的に今作は今年公開された邦画の中で、上位にランキングされる作品である。

滋賀で母と暮らしていた妹ユウと、単身上京した姉エイミ。母が亡くなったことで、ひとりぼっちで、かつて家族が暮らしていた一軒家で一人暮らしをしていたユウとエイミの久しぶりの再会から物語は展開される。

東京観光をする2人は、決して仲が悪いというわけではないが、どこかよそよそしく、互いに観照しあわない。他人に興味がなくなっているといわれる現代社会ではあるが、それは家族においても同じことがいえ、さらに家族だからこそ、姉妹だからこその距離感というものもある。

そんな中、急に妹がいなくなる…….。

外見上の特徴などはわかるが、交友関係や滋賀での生活環境を知らないことを改めて痛感する。

例外的なことはあるだろうが、気づけば身近な人のことを良く知らないというのは、現代においては、いわゆる「普通の家族」でもあるのだ。

ユウのことを知っている気でいたが、それは上京する前までの止まった記憶の中で作り出されたエイミの想像上の妹像でしかない。

だから単なる突発的な家出なのか、事件に巻き込まれたのかも判断ができない。警察に駆け込むが、そこには行方不明者の張り紙もあり、不安が過ぎる。舞台は日本ではあるが、東京国際映画祭で上映された『市民』や『箱』のような、治安の悪いメキシコを連想させるような画も、また不安をかきたてる。

治安の良い日本とはいえ、2020年度の行方不明者の届け出は7万7022人 。自分の身近な人であれば不安にならずにはいられない。

そんな中で、同じく行方不明になった自分の妹の張り紙を見る女性ヒヨリと出会う。

警察から似た年齢の遺体が発見されたと連絡があり、滋賀に急いで向かうエイミ。幸いにもその遺体はユウではなかったが、ヒヨリの妹だった……。

ヒヨリの妹は殺されたと思い、警察の捜査が信用できないヒヨリは独自で犯人捜しをするうえで、エイミも多くの共通点を感じ、行動を共にするようになるが、それはエイミの不安から導き出されたミスリードであるかもしれないし、本当にそうなのかもしれない。

事故か事件か、それともただの家出なのか……確証をもてるほど、ユウのことを何も知らないかったこと、取り戻せない過ぎ去った日々、母親を失って、ひとり暮らしには広すぎる実家で感じて寂しさも理解していなかった……そんな自分自身への怒りと後悔が、事態を思わぬ方向に向かわせてしまう。

今作のラストはタイトルの通り、ある意味では希望があるという意味で、「happy end」といえるかもしれないが、一方では新たな絶望を生んでしまったことにも間違いないのだ。

バフィー吉川(Buffys Movie)