劇場公開日 2022年1月14日

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「超豪華な事件再現VTRを見ているような不思議な感覚」ハウス・オブ・グッチ すけさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0超豪華な事件再現VTRを見ているような不思議な感覚

2023年1月23日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

グッチ一族凋落の事件を、実話を基にしつつもフィクションとしてドラマチックに描いたサスペンス。

主役のレディー・ガガ(パトリツィア)の演技が素晴らしいとは聞いていましたが、本当に良かったです。
彼女の大きな魅力である目力の強さを遺憾なく発揮していましたね。
アダム・ドライバー(マウリツィオ)の表情もとても良い。父であるロドルフォに向ける目で、厳格な父親から抑圧されて内向的になっていったのが分かるようになっている。
ジャレッド・レト、ジェレミー・アイアンズ、アル・パチーノと他のメンツも目で語るのがとても上手い。
本作は俳優陣の目を見る機会が多かった作品でした。

そしてリドリー・スコット監督による登場人物の内面を描き出すライティングも絶妙。顔にかかる影すらも表情として切り取る監督の手腕は流石だと思います。
シーンによって色のトーンも変わり、言葉数が少なくとも映像だけで心情を語らせるのが本当に上手いなと。
地味だけども登場人物が歳を取っていくメイクも素晴らしかったです。
最初の20代の時にパトリツィアとマウリツィオが出会う時の肌は若々しいですが、徐々にシミやシワが増え、数字として何年経ったかを書かなくても時間が進んでいるのが分かるのがいいですね。
映画らしい映像美が楽しめました。

しかし、シナリオは個人的にはちょっと微妙だったんですよね。

主人公のパトリツィアに全く感情移入できないのが大きな原因。
自分のことは一切顧みず、「私が正しいのになぜ話を聞かないのか」の一点張りで、自分の見たいものしか見ず、欲しい言葉しか聞かず、思い通りにいかなければヒステリックに喚き散らし、最後には泣き落としで情に訴えかけようとする姿は見ているだけで辟易とします。

マウリツィオも流されるのか流されないのかイマイチわからなくて失策ばかり。
なんだかな〜の連続でした。

というかグッチという世界最大級のメゾンを作り上げた一族だけあって登場人物全員我が強く、誰にも感情移入することが出来ませんでした。
誰にも共感出来ないまま最後まで進むせいで、現実で起こった話(もちろんちゃんとフィクションになってるとはいえ)なのにスクリーン越しに知らない世界を見ている感覚がとても強く、失礼な話になりますが自分はバラエティでよく見る事件再現VTRの超豪華版を見ているように感じてしまいました。
パトリツィアが野心が高く頭を使って他人を蹴落としながらグッチの名を使い富と名声を欲するキャラならまだ良かったのですが、身の丈に合わないプライドの高さに意地悪いだけの嫌な女性だったのがな。
後世に語り継がれるような稀代の悪女だったらまだ良かったのですが……。

まぁ、色々書きましたが決してシナリオの出来が悪かったというわけではなく、ただ自分に刺さらなかっただけなんですけどね。「事実は小説より奇なり」というには一歩足りなかった感じです。
Netflixの『ザ・クラウン』のような史実とフィクションを織り交ぜた上流階級のスキャンダラスな一面を描く作品が好きな人は好きになれると思います。

すけ