「華麗なる一族の滅亡」ハウス・オブ・グッチ おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
華麗なる一族の滅亡
私のような庶民には一生縁がないのですが、それでも名前だけは知っている、世界的な有名ブランドのGUCCI。もちろん創業者のことも、お家騒動があったことさえも全く知りません。そんなGUCCI一族の破滅の歴史を描いた本作。事実をもとにして作られたということもあり、なかなか興味深かったです。
ストーリーは、運送会社の娘パトリツィアは、GUCCI創業者の孫マウリツィオを射止め、結婚後は穏やかな生活は送っていたが、マウリツィオの伯父アルドの勧めでGUCCIに入社したところから歯車が狂い始め、ついにはアルドも彼の息子パオロも排除するものの、夫マウリツィオとも険悪になり自身も捨てられてしまい、最後は…という創業家の末路を描きます。
上映時間159分という長い作品でしたが、テンポよく展開したおかげで、途中でだれることなく集中して鑑賞できました。むしろこれだけの内容をよくこの時間にまとめたと思います。一方で、野心が芽生えたきっかけ、それが抑えきれなくなった理由、邪魔者を排除する狡猾さや冷徹さなどを、もっともっと生々しく描いてほしかったし、そのためにはこの尺をもってしてもまだ足らなかったのではないかとも思います。
主演はレディ・ガガで、かわいらしく、美しく、憎らしく、恐ろしくパトリツィアを熱演しています。音楽に疎いので、鑑賞中は彼女と気づかなかったのですが、女優としてもすばらしい才能の持ち主だと感じました。マウリツィオ役はアダム・ドライバーで、純朴な青年が恋に落ち、操られるように野心を抱くも、その才なく失意のうちに退陣させられるまでの変容を見事に演じています。脇を固めるアル・パチーノもいい味出していましたし、ジャレッド・レトの演技も秀逸でした。もっとも、鑑賞中は彼が演じているとは気づきませんでしたが…。
それにしても、金が人を変えるのか、その人自身にもともと眠っていた欲望なのか…、しだいに狂気に侵されていく姿が恐ろしくも痛ましいです。富さえ手に入れなければ、権力さえ目の前にちらつかなければ、本当はつつましやかな幸せで満足できたはず。貧乏な家に生まれ、才能も出世欲もない私は、きっと幸運なのだと思います。