雨を告げる漂流団地 : 特集
【予想外です】「漂流教室」×「オトナ帝国の逆襲」!?
観れば懐かしい匂いがして、心の栄養補給になる…
全ての“子どもだった人”に贈る、切なく爽やかな感動作
私たちは、映画は“心の足りない栄養素を補ってくれる芸術”だと考えています。ノスタルジーや温かみ、切なさや爽やかな感動を与えてくれる「雨を告げる漂流団地」が、9月16日から劇場公開&Netflixで独占配信されます。
その物語は、例えるなら楳図かずおによる漫画「漂流教室」と、傑作と名高い「映画 クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲」を融合させたよう。
そもそも「団地が異世界を漂流する」という設定も見事ですが、観れば懐かしさに胸がキューっとなり、心がじんわりと満たされていく……全ての“子どもだった大人”に贈る、切なく爽やかなこの感動作を、映画館やご自宅で、ぜひご覧いただきたく思います。
本特集では、「雨を告げる漂流団地」の見どころやレビューをご紹介します。
>>Netflixの配信ページはこちら あなたはどっちで観る!?
【見どころ】設定が好奇心そそる! 小学生と団地が
異世界を漂流!? この秋、映画.com注目の新作アニメ
まずは見どころをご紹介。映画.com編集部が注目するのは、興味深い設定と、先が気になるストーリーテリング、そして“ポスト・ジブリ”といっても過言ではないスタジオによるアニメーションです。
●ストーリー:解体が進む団地が大海原に漂流! 子どもたちだけのサバイバル生活
物語の主人公は、小学6年生の航祐(こうすけ)と夏芽(なつめ)。姉弟のように仲良くすごし、サッカークラブではツートップを組んでいたふたりは、航祐の祖父が他界したことをきっかけにギクシャクしてしまいます。
そんな夏休みのある日、解体が進んで「おばけ団地」と呼ばれている立ち入り禁止の団地にクラスメイトと忍びこんだ航祐は、団地の部屋でひとり寝ている夏芽と遭遇。この団地はふたりが育った家で、亡くなった祖父の思い出もつまっている大事な場所なのでした。
久しぶりに言葉をかわし、団地にあらわれた謎の少年・のっぽの存在について話していたふたりは、突然不思議な現象に巻きこまれ、気がついたらあたりは一面の大海原! 航祐たちがいる一棟の団地だけが謎の海を漂流しており、子どもたちはもとの世界に帰るために力をあわせてサバイバル生活を送ることに――。
●“ポスト・ジブリ”ことスタジオコロリドの最新作…そそる設定×先が気になる物語×ノスタルジー&感動!
本作の制作を担うスタジオコロリドは2011年設立のアニメスタジオで、「雨を告げる漂流団地」が長編3作目。第2作のオリジナル映画「泣きたい私は猫をかぶる」は2020年にNetflixで全世界配信され、世界30カ国以上で再生回数の多い映画ランキングTOP10に選ばれるなど人気を博しています。
近年では「ポケットモンスター」のウェブアニメシリーズ「薄明の翼」「POKÉTOON」、「BLEACH」の久保帯人氏原作のファンタジーアクション「BURN THE WITCH」など、国内外のアニメファン注目の作品を次々と発表。良質でクオリティの高いアニメーションを制作するスタジオとして“ポストジブリ”の有力候補といっても過言ではないほど存在感を増しつつあります。
そんなスタジオコロリドが満を持して贈る長編3作目「雨を告げる漂流団地」は、これまでの蓄積と新しい挑戦がつめこまれています。巧みな物語展開と見ごたえたっぷりのアニメーションで見る人をノスタルジーと感動につつみこみ、珠玉の映画体験へといざないます。
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【ここがすごい】監督自ら団地に引っ越して制作!
“渾身”の団地!クライマックスは1分の映像に
制作6カ月間 !
この項目では、普段アニメはあまり観ない映画ファンに向けて、「本作のどこがすごいのか」をわかりやすく解説していきます。
●監督の才能がすごい! 業界では異例の若さで長編2作目にチャレンジ
石田祐康監督は、29歳のときに「ペンギン・ハイウェイ」で長編監督デビューした新進気鋭のクリエイター。通常はアニメ制作会社などで経験を積んで監督になるところを、自主制作で注目を集めたのちにアニメーション監督に抜てきされるという、極めて珍しいキャリアパスで長編を手がけました。同様のキャリアパスを経たアニメ監督に「君の名は。」の新海誠監督、「アイの歌声を聴かせて」の吉浦康裕監督がいます。
長編デビュー作の「ペンギン・ハイウェイ」は日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞、ファンタジア国際映画祭今敏賞(ベストアニメーション賞)を受賞し、国内外で高い評価をうけました。そんな石田監督が、34歳の若さで長編映画2作目のオリジナル作品「雨を告げる漂流団地」を手がけるのは、業界では異例の若さとして注目されています。
●石田監督の姿勢がすごい! 実際に団地へ移住(ロケハンのため)
住んだ経験がなくてもどこか懐かしいと感じる、日本人の原風景のひとつと言える団地を本作の舞台に選んだ石田監督。子どものころから集合住宅に憧れていた石田監督は、なんと本作の企画中に「住むことが最大のロケハン」と考えて団地に引っ越し、実際に住む経験をしています。
子どもたちが主人公なら、学校が漂流するほうが分かりやすいのではという意見もあったそうですが、石田監督の強い思いで文字通り団地で“船出”した本作。オリジナル作品ならではの挑戦と、団地愛があふれまくった描写の数々は必見です。団地は3Dでカメラが中に入ってさまざまな角度から見ることができるほど、手がこんだつくりで設計されています。
●約1分間の映像のために制作6カ月間! 水と観覧車の描写、少年少女の生き生きとした動きにも注目!
石田監督は大学在籍時代に発表した短編「フミコの告白」、2013年公開の短編映画「陽なたのアオシグレ」の頃から、少年少女が躍動する姿を魅力的に描き続けてきました。本作でも、小学6年生の子どもたちが漂流した団地でサバイバル生活をおくる様子が生き生きと映され、子どもたちの豊かな心情がビビッドに感じられる振る舞いが繊細なアニメーションで描かれています。
石田監督の前作「ペンギン・ハイウェイ」で注目された水の表現もさらに進化し、嵐の波の表現には手描きの作画をしてからCGにするなど、こだわって制作されています。なかでも最注目はクライマックスの“青い波”が光るシーン。本編1時間38~39分あたりの約1分ほどのこのシーンに、制作に半年間も費やされているというから驚きです。
物語の終盤に登場する観覧車のシーンも大きな見どころ。緻密に設計された設定と美術にくわえ、ストーリーの展開に大きくからむ創意工夫にあふれた奇想天外な“観覧車の使い方”はアニメーションの楽しみに満ちあふれています。
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【編集部レビュー】平成元年生まれが観てみたら…
ノスタルジーに胸がキュ~となり、涙がボロボロ出た話
特集の最後に、映画.com編集部員が鑑賞したレビューをお届け。実際にどんな感情になれるのかを記述しているので、作品選びの参考にしてもらえれば幸いです。
●全身でノスタルジーの雨を浴びる映画…懐かしさは身近な“麻薬”
筆者は平成元年生まれの男性編集者だ。実家の近く(自転車で5分くらいのところ)に県内最大規模の団地があり、そこに友人のRくんが住んでいたためよく遊びに行っていた。だから、僕にとって団地はごく身近な存在だった。
本作の端々に映る団地の景色は、Rくんの家をまざまざと思い出させて、僕をたまらない気持ちにさせた。機能的だが面白みのない間取り。ささくれだらけの畳。ところどころ破れたふすま。すぐ下に公園が見えるベランダ。誰かがやってきては去っていった時空のぬくもり……。触ることができそうなほどリアルで、悪魔的に懐かしく、画面から匂いがする錯覚を起こしたほどだった。
俳優ライアン・レイノルズは、「ノスタルジーは我々の最も身近にある麻薬」と言っていた。ちょこちょこと団地へ遊びに行っていた僕が“この感じ方”なのだから、おそらく団地に住んだことがある人が本作を観たら、心の柔らかい部分を突かれてひとたまりもないはずだ。
●涙が自然とこぼれ落ちる場面も…少年少女の心の旅が、脳を直接揺さぶる
見どころは描写だけではなく、当然いろいろある。まずシチュエーションだが、「この団地一棟だけ漂流」「メンバーは子どもたち6人のみ」「ほぼ食料はない」「周りは見渡す限り海だけ=自給自足がほぼ不可能」という点がユニークだ。「漂流教室」「漂流ネットカフェ」などの先行作品では、メンバーに大人がいたり、食料は十分あったりしたので、「漂流団地」は最初からかなりハードモードのサバイバルを強いられている。
ところが物語中盤、海の向こうから謎の建物が流れてくる……ここから物語はさらに急転していったので、読者の皆様はお楽しみに!
そして物語にもグッとくるものがあった。主人公の少年・航祐と少女・夏芽は、姉弟のように育った幼なじみ。とことん仲がよかったが、2人の心の支えだった安次(航祐の祖父だ)が亡くなったことをきっかけに、関係がギクシャクしていた。
そんななか「団地ごと漂流してしまう」という現象に巻き込まれるのだ。この異世界は航祐と夏芽の“内的世界”のメタファーであり、彼らが難題や苦境を打開していくたびに、彼ら自身の問題も解決されていく構造になっている。
すなわち漂流は“心の旅”なのだ。航祐と夏芽が悩みながら、傷つけ合いながら、そして寄り添いながら成長していく姿は、ノスタルジーも手伝ってか“僕自身の過去”とピタリと重なっていった。あの頃の思い出が目の奥から溢れ出す……。
「ずっと真夜中でいいのに。」による主題歌・挿入歌も、ひたすらにエモーショナルで、ネオ・シティポップが大好きな僕の脳髄を直接刺激してくれた。映像、物語、音楽、すべてが渾然一体となる。やがて感情の豪雨が、それこそバケツを引っくり返したみたいに頭上から降り注ぐ。エンドロールを眺めるうちに涙があふれてきて、心がじんわりと満たされていくのも感じた。
やや抽象的なレビューとなってしまったが、大切な感情はときに言葉にしづらいものだ。「雨を告げる漂流団地」。窓を叩く秋雨の気配を感じながら、丁寧に、じっくり味わいたい一作である。