劇場公開日 2023年2月4日

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「うちらがこの町のセイフティネットなんだから。新しい当たり前つくっていこうね。」茶飲友達 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0うちらがこの町のセイフティネットなんだから。新しい当たり前つくっていこうね。

2023年2月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

老人相手のデリヘル。キャストも老人。暗黙で本番ありの。70代の8割は性欲がまだあるというくらいなのだから、現実にあってもいいんじゃないか、そう思わされるほどに、幸せな関係を保つビジネスモデルだった。客もキャストも、運営する若者も使われる老人も。実際、世の中のデリヘルでさえスレスレなんだろうから、この映画の中の連中だって完全アウトではなくて、スレスレでグレーな世界。むしろ、ニーズをくみ取り、さらに雇用もうみ、ウィンウィンじゃないか、と擁護する気持ちにもなる。
付け加えれば、妖艶なベッドシーンも、さらけ出す裸体もない。むしろ、そのおかげで幅広い客層が鑑賞できると思えるので、いいことだと思う。エロ目的ではなく、純粋な社会問題の一片と思ってみてほしい映画だ。
老人の性を中心にしながら、命、生き方、親子、いろいろな問いかけがある。それぞれに、嘘と建前に飾られた偽物の親切と、苦しみと我慢に隠された真実の優しさがある。当然、偽物の親切はいともたやすくメッキが剥げるし、真実の優しさは強固で不動のものだ。それが顕れるのが、日常ではなく逆境の場面だというのが皮肉なのだが。それは、実社会でもそんなものだからしょうがないか。
マツコのした(しなかった)行為が犯罪であるならば、それは人間の生きる権利(死ぬ権利)への蹂躙ではないか、とさえ思う。それを犯罪として罰することよりも、そういう老人ばかりになってしまっている世の中の仕組みを変えることにこそ、政治はエネルギーを注いでくれとも思う。このさき、自分が老いていく時代が、この世界よりももっと世知辛いのが目に見えている以上、この映画のすべてが悲しくしか見えない。そして、そう思わせてくれることにはほのかな嬉しさしかない。(たぶん、いい映画を観たという気持ちなんだろうけど)。うまく説明のできない、なんだか、へんな感情になっている。

栗太郎