「落ちぶれてカーニバル座の見せ物であった人獣として舞い戻るとのストーリーは悪くないのだが」ナイトメア・アリー Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
落ちぶれてカーニバル座の見せ物であった人獣として舞い戻るとのストーリーは悪くないのだが
自宅を燃やす導入の映像は鮮やか。その前に事実上の父親殺しをしたことが後に明かされるブラッドリー・クーパー。彼がカーニバル一座で努力して得たものを糧に、看板娘(ルーニー・マーラ)を連れて独立してショービジネスで成功。しかし、危ない相手に詐欺を働いて殺人、落ちぶれてカーニバル座の見せ物であった人獣として舞い戻るとのストーリーは、最初の方のエピソードが良く効いていて悪くない。ただ結果的には、大きな期待もあってかも
しれないが、今一つの印象であった。
第一に、美しく可憐なマーラーが強く止めるのも聞かず、大富豪相手に超能力で死者と交流できるとの詐欺にドンドンのめり込んでいくクーパーに、説得力をあまり感じることが出来なかった。妖艶で美しい心理学者(ケイト・ブランシェット)に魅せられたということも有る様だが、そこまでの魔性的美しさは感じられなかった。
第二に、大富豪リチャード・ジェンキンスとブランシェットの関係性は、治療者と顧客以上の関係性を示唆している様に見えるが、詳細は明らかにされておらず、彼女の裏切り理由が判然とせず、モヤモヤ感が残ったまま。ノワール映画の伝統芸とは言え、今風にスッキリとさせて欲しかった。
ただ、ルーニー・マーラ、半裸に近い彼女が電気に痺れるカーニバル芸の見せ方は、彼女の美しさと相まって、なかなかに良かった。ずっと禁酒していたクーパーが大富豪を殺し、マーラにも逃げられ酒をあびる様は、アリー/スター誕生の印象もあってか、何だかとても似合ってもいた。
ギレルモ・デル・トロ監督(2017年シェイプ・オブ・ウオーターでアカデミー作品賞と監督賞を受賞)による米国2021年公開の米国映画。原作はウイリアム・リンゼイ・グラシャム。1947年「悪魔の往く町」に続く2度目の映画化作品。脚本は監督とキム・モーガン。撮影はダン・ローステン、音楽はネイサン・ジョンサン。
出演は、ブラッドリー・クーパー(リコリス・ピザ等)、ケイト・ブランシェット(ブルー・ジャスミンでアカデミー主演女優賞)、ルーニー・マーラ(マグダラのマリア等)、トニ・コレット、リチャード・ジェンキンス(大富豪役)。