「脚のない鳥が地上に降りた時」雨とあなたの物語 バラージさんの映画レビュー(感想・評価)
脚のない鳥が地上に降りた時
男女の恋愛映画かと思ってたが、実際観てみると主人公の2人だけでなく、その周囲の人々も含めた群像劇ドラマだった。男性主人公に大胆に好意を示す予備校の同級生の女の子、小さな店を営む靴職人の父親、その父親に店を売ることをすすめるエリート会社員の兄、女性主人公の植物状態の姉、古書店を経営する母、古書店で働く人嫌いの読書家など、主人公の2人を中心にしながら多彩な人物が織り成すストーリーで、役者陣もみな好演。女性主人公が好きな女優のチョン・ウヒってことで観たんだが、カン・ハヌル演じる男性主人公に大胆にアプローチする同級生役のカン・ソラも素晴らしかった。
その同級生がビル面の巨大テレビジョンで流れていたレスリー・チャンの飛び降り自殺のニュースを見てつぶやく「脚のない鳥が地上に降りた」「『欲望の翼』って知ってる?」、主人公「幽霊と恋する映画なら観た」というやり取りを見て、それだけでこの映画は好きになれると確信した。かのウォン・カーウァイの傑作『欲望の翼』の中でレスリー演じる人物がモノローグする「脚のない鳥がいるそうだ。飛び続けて疲れたら風の中で眠り、一生に一度だけ地上に降りる」という有名な台詞(テネシー・ウィリアムズ『地獄のオルフェウス』の一節とのこと)の引用で、そのあと同級生は「一晩いっしょにいてよ。レスリーが死んだ日なら忘れることはないから」みたいな台詞を言うのだが、もうこのシーンだけで素晴らしい。レスリーの飛び降り自殺の第一報を確か『NEWS23』で知った時は僕も本当に衝撃だったし、その記憶がまざまざと甦った。ちなみに「幽霊と恋する映画」は多分『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』だろう。
そこで気づいたが、この映画も『欲望の翼』と同じように孤独な若者たちの青春群像劇映画なのだ。脚本を無視した即興的演出で暗い作風の映画を撮るウォン・カーウァイに対して、脚本のしっかりとしたハートウォーミングな映画という意味では作品の雰囲気はだいぶ異なるが、間違いなく通底したものがある。映画の中で久しぶりに同級生と会った2011年の男性主人公が『欲望の翼』のビデオを観るシーンもあった。
とにかく脚本が本当によく出来た映画で、そこも非常に感心した。何度も「あー、そうか。なるほど」と思わされた。とてもいい映画でした。
