「自分で判断すること」レイジング・ファイア LSさんの映画レビュー(感想・評価)
自分で判断すること
香港の警察物。体を張ったアクションは様式美的でありつつ迫力があり、銃撃戦やカーチェイスシーンも緊張感が素晴らしい。
「ただ悪より救いたまえ」のレビューでよく言及されていたので興味を持ったが、正直観るか迷っていた。映画の中と現実は区別すべきと思うが、警察が法執行の名の下で民主派市民を抑圧している現状で、警察ドラマで何を描こうと欺瞞でしかないのではと。
本作が撮られていたのは国安法の香港適用(2020年6月)以前だが、公開は適用後であり、政治批判を含む余地があるとは考えられない。むしろ、監察の査問で上官が法をまげてでも容疑者を捕らえよと示唆するシーンには、お上も無慈悲ではないことを示すプロパガンダ臭を感じた(上司が主人公の法を超えた行動に見て見ぬふりをするのは警察物の定番だが、上司個人の信念というより部下たちの請願も受けて上司3人が合議で決めた、これがこの国の民主だ!みたいな)。
このシーンを除けば、作品は警察官としての正しさ、人としての正義、組織のあり方の間での葛藤を核とする、伝統的な警察ドラマと映った。
劇中の人物も、たぶん制作陣も、様々な制約のある中で、自分のなすべき仕事を全うしようとしている。その中で何が正しいかを自分で判断することが重要で、それを伝え続けることに、この地で映画が創られ続ける意味があるのではと感じた。
現在の香港での具体的な制約は分かりませんが(すいません)、本土では検閲や上映禁止もあるし、俳優個人が立場表明を迫られる踏み絵のような状況も聞きます。国安法以降の香港での言論空間への強権的介入を見れば、映画制作や芸能業界も無傷とは思えません。
そんな中で、立ち上がった人々には心から敬意を表すと同時に、声を上げない(上げられない)人々も考えや信じるところがありながら日々を生きているであろうことに想像力を働かせたいと思った次第です。
コメントありがとうございます。
制約ある中での映画なんですね。香港のことはリアルに分かっていません。それが悔しいです。雨傘運動に賛意を表した最高のスターが干されたことにはショック受けました。「追龍」で香港映画に目覚めてコロナが収まったらまずいちばんに香港に行きたいと思ってました。叶って欲しい願いです。