「じわじわと好きになる作品」機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島 映画読みさんの映画レビュー(感想・評価)
じわじわと好きになる作品
昨年観たハサウェイは「美麗な映像で、話の雑さと言葉の浅さを誤魔化すタイプ」で苦しかった。
ガンダムは、エヴァQ的な信者たちにお布施を願うコンテンツの方向に行ってしまったのだなと。
なので、全然期待せずに(都合上観ないといけないので)観に行ったのだが、
いい意味で予想を裏切られて充分に面白かった。
・概要
テレビシリーズ15話「ククルス・ドアンの島」の翻案作品。
初代ガンダムはドアン以外にも「戦争群像劇」的な話が多く、ドアンだけがヒューマニズムを描いた特徴的な話というわけではない。8話「戦場は荒野」、14話「時間よ、止まれ」など、10回スパロボやGジェネを作ってもマップにできない話がけっこうある。
その中で、初代のキャラデザであり作画監督もしていた安彦良和氏が特に好きなエピソードとして映画化を希望したのが15話「ククルス・ドアンの島」らしい。現在は漫画家として活躍中の安彦良和氏であり、氏の漫画『ジ・オリジン』の流れを組む映画化だが、元々アニメ監督経験もあった安彦氏がそのまま監督を務めているという気合いの入った作品。
・良かった点
元々24分の作品を2時間近くにするということで、ハサウェイのような地獄のような間延びが待っているのではないかと思っていたが、失礼な思い込みだった。冒頭からエンタメを意識した作りで、退屈させるような展開はほとんどない。あの話なのに、大迫力で見せる戦闘シーンは「けっこう多い」と感じたほど。
内容的にも、「人間の交流による感情の動き」がメインで、ガンダムやMS、連邦ジオンはあくまでも装置なので、ガンダムをまったく知らない人でも8割は楽しめるのではという内容。昔のジブリ作品的。
ただ、ガンダムと名の付いたMSが無双する、ゲームシリーズのようにガンダムが超絶アクションで敵を屠る、必殺技を撃つ、などが好きなガンダムファンは「理想と違う」と思うのかもしれない。でも1stガンダムの流れとしてはこの通りだし、もっと湿っぽい話もあるのは前述の通り。
主人公アムロは本作でも「陰キャ」なのだが、Z世代の青年(少年ではない)的な再解釈が新鮮だった。興味があることは黙々とやる、興味がないことは同僚や上司の言葉でも気にかけない。長尺でドアンとの交流を描く上で、適切な改編だと思う。オタク少年的に熱いアムロでは、このしっとりした感じ・現代感は生まれなかっただろう。
バトルは時代劇の殺陣的な演出。足さばき、間合い、地の利、ゆらゆら、まさかの宮本武蔵……美麗な映像でやるにはすこし癖のある演出にも思えたが、本作全体のスピード感と緊張感に呼応していたように思う。とはいえ、敵方はホバー機動する高機動型ザクの一隊で0080冒頭的な機動戦闘を見せてくれるので、緩急ついていて退屈にならない。
・微妙だった点
とくに前半に多く見える、昭和しぐさ。令和でも平成ではなくて昭和。具体的に言うと、会話に伴う全員の不自然に見えるオーバーリアクションや、昭和的な心情回路の言動。中盤以降はほとんど無くなるので気にならなくなるが、地上波放送や配信が行われた時には、言動の古さを感じた若者はそこで離脱するかもしれない。とはいえ、悪い点だけでなく「昭和の青年的に、自然体で情に厚いカイ」などは魅力的。順番が逆だったらよかったと思う。
敵側が、敵役というよりやられ役という点で割り切られていた点。雑魚から隊長まで北斗の拳の雑魚キャラ的な人格が乗せられてしまっているが、もう少し真剣味のある人間たちでもよかったと思う。ドアンが元々はあの集団のリーダーだった(そして戦争から逃げ、劇的に改心した)という意味はあるのだろうが。
丁寧すぎるシーン。40年ぶりの初代ガンダム・アニメ化ということで「全部書きたい」のは仕方がなかったのだろうが、ホワイトベース隊のやりとり、苦労人ブライトの描写、ドアンの子供たちとのやりとりが少し冗長に感じた。もう少しハイテンポでつないでくれた方が個人的に嬉しかった。
脚本的なツッコミとしては、幅を持たせた脚本であることで大抵のツッコミは回避できるのだが、カツレツキッカがガンペリーに乗っていくのだけはラストシーンありきの無理筋に感じた。そこだけはいろいろ丁寧な中で急激に雑。
・総評
良かったです。感動ズバーッという作品ではないけど、じわじわと「あれ、好きな作品」「あれは何気に良かった」と語られる作品だと思います。準ジブリと言うと失礼な気がするけど、1stガンダムという縛りで準ジブリ的な水準に到達していると思います。