「皮肉たっぷりの社会派コメディ」ドント・ルック・アップ といぼ:レビューが長い人さんの映画レビュー(感想・評価)
皮肉たっぷりの社会派コメディ
公開当時、ネットフリックスの総視聴時間の記録を打ち立てた本作。
私は本作を観るためにネットフリックスに入会したと言っても過言ではありません。
映画レビュアーの中には、本作を2021年公開映画の第一位に挙げる方もいらっしゃるほどの作品です。評判ばかり気にして行動が後手後手になる政治家や、内容よりも見栄えを重視した報道やSNSの風潮を痛烈に皮肉ったアメリカ的なブラックコメディ映画ですが、日本人から見ても共感できるとともに、身につまされるような内容の映画になっており、本当に素晴らしかったです。
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天文学を専攻する大学院生のケイト(ジェニファー・ローレンス)は、これまで未発見だった巨大彗星を発見する。教授であるランドール(レオナルド・ディカプリオ)にこのことを相談し、彗星の軌道を計算したところ、半年後に地球に直撃し、地球上の生命が絶滅することが判明した。このことを大統領やマスコミに進言するが、大統領もマスコミも、そしてアメリカ国民もこのことを理解しようとはしなかった。
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本作の監督であるアダム・マッケイ氏は、コメディと社会派を得意とする監督です。
監督デビューしてからしばらくはバリバリのコメディ映画を多く制作していましたが、2015年公開のリーマンショックを題材にした映画『マネーショート 華麗なる大逆転』は、アメリカの金融業界に蔓延る問題点について、ユーモラスに分かりやすくも非常に鋭く切り込んだ社会派な映画になっていました。
そんなアダム監督がレオナルド・ディカプリオらの豪華俳優を迎えてネットフリックス製作で作り上げたのが本作『ドント・ルック・アップ』です。映画のテイストはコメディチックなんですが、現代社会における政治家やマスメディアやSNSを痛烈に皮肉ったブラックコメディがてんこ盛りで、どう見ても実在の人物がモデルになっているであろう個性豊かな登場人物たちが笑いを誘います。
この映画が公開された社会的背景も、本作がここまで話題になった理由でしょうね。具体的に言えば、コロナですね。
本作の劇中では、地球に接近する彗星の存在を信じる派(ルック・アップ派)と、接近してくる彗星を見ようとしない派(ドント・ルック・アップ派)の対立が描かれますが、これはコロナ禍におけるマスクする派としない派の対立と似たような印象を受けました。同じように考えている方も多いらしく、色んな方々のレビューを見ると、多くの人のレビューに「コロナ」の文字が散見されます。
地球に接近する隕石をどうにかする話として、おそらく世界一有名であろう『アルマゲドン』とは全く別の方向に展開するストーリーが非常に秀逸で笑えます。しかし同時に、「おそらく実際に地球に隕石が接近したら、『アルマゲドン』よりも『ドント・ルック・アップ』に近い事態になるだろう」と思わざるを得ません。
『ドント・ルック・アップ』という映画のタイトルもなかなか秀逸です。地球の危機を広めようと奔走するケイトやランドールと対立的な立場をとる団体のスローガンを、そのままタイトルにしてしまうなんて、なんて皮肉めいているんでしょうか。しかも、”look up”には「見上げる」以外にも「調べる」という意味があり、「ドント・ルック・アップ」は「(彗星を)見上げるな」「調べるな」というダブルミーニングになっているんですね。権威を持つ者の主張を鵜呑みにして科学的根拠を調べようともしない派閥の彼らにはぴったりのスローガンで、これを知った時は驚きましたね。
とにかく、今観ておくべき最高傑作のブラックコメディ映画だと感じました。オススメです!!