ちょっと思い出しただけのレビュー・感想・評価
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もうそこにいなくても、生きる希望を与えてくれる人がいる
「良い映画」とはどんな映画か。「もう一度見たくなる」映画だと私は思う。それは、もう一度見たときに「さらにもう一度見たくなる」ということだろう。私は、今作をまだ一回しか見ていないが、また見に行きたいと思う。男女二人の6年間のいろいろなシーンが鮮明に目に浮かんでくる。クリープハイプ「ナイトオンザプラネット」に着想を得た脚本だから当然なのだが、曲と映像とが調和していて、余韻でじんときている。あの世界に生きている人たちは、決して浮世離れしていない、ごく身近にいてもおかしくないような姿をしている。人生良いことばかりではなく、悲しいことや辛いことの方が多いくらいだろう。「それでも生きていこう」と思えるのは、それぞれにかけがえのない誰かの存在があるからだろう。たとえ、もういなくなっても、心の中で互いの背中を押しているのではないかと思うのは、楽観的すぎるだろうか。
会話劇のような回想ラブストーリー
二度と戻れない愛おしい日々を回想していくラブストーリーで会話劇に近いような印象を受けた。主演の池松壮亮と伊藤沙莉の個性が上手く引き出されていて魅力的な関係性が築かれている。また、脇役も豪華な顔ぶれで主演の二人に花を添えているように感じた。
2022-35
「タクシー」と「バレッタ」そして、時間軸を遡る巧みな演出に見事にやられた
“エモい”って言葉が最高に似合う作品だ。
思ってた以上にいい!同じ日に見たウェストサイドストーリーより全然いい!なんだろう、自分の琴線に触れてラストは涙が溢れた。
生きていれば誰にでもある“ちょっと思い出す”こと。とりわけ若い頃の恋愛、元恋人との思い出はちょっとしたことをきっかけに、例えば彼の誕生日とか、思い出の場所などを通ったり聞いたりするとその瞬間、瞬間で思い出す。
物語は2021年7月27日東京オリンピックが開催されているコロナ禍から2015年7月27日まで遡る。7月27日(水)で止まったままの時計や、電気のスイッチがタイムマシーンのようなものとなり、ごく自然に物語は過去へ過去へと遡っていく。これ、意識して見ていないと気づいたらあれあれ?ってな感じになるが、マスクの有無で分かるかと。
愛する人と過ごす「時間よ止まれ!」と願う幸せなひと時はあっという間に過ぎていく。だけど時は淡々と過ぎ去り、ときに残酷に、その現実を突きつける。そして私たち人間の感情もナマモノ。常に移り変わり変化し続ける。
対して止まったものとして描かれているのは、照生くんの部屋にある止まったカレンダーの時計とベンチで妻を待ち続けるジュン。
人も、街も変わりゆく。だからこそ、その時、その瞬間を大切に、伝えたい言葉は伝えようねっていうメッセージ性が感じられた。
それにしても脇役に主役級の大物たちが勢揃い!池松壮亮と成田凌というよく似た二人が出演するのもちょっと嬉しい。
※以下ネタバレになります
タクシー運転手をする葉が長髪の照生に誕生日プレゼントでバレッタを贈った。
「タクシー運転手」って今は女性のドライバーも沢山いるが、圧倒的に男性の仕事というイメージがまだまだある。また「バレッタ」は女性の髪の毛をまとめるアクセサリーとしての認識があるが、本作でその固定観念を取り払ったことに称賛を送りたい!
本作のラストには『そうきたか〜!』って。
みーんな何かしら折り合いをつけながら、生きている。
ラストシーンは共感しまくりだ。わたしが女性ってのもあるのかしら?適齢期に結婚して子供を産んでっていう、惰性と妥協と少しの計算。適齢期の、特に子供が欲しいと願う女性の場合はとりわけその傾向が少なからずあるんじゃないかな。本作の葉のように、私だってそうだった。
高校生だった和泉ちゃんは大学生となり、中井戸さんの意中の相手も一気に年上の男性に変わり、照生くんの仕事も変わって、葉のタクシーの車も変わる。
変化してゆく、人生ってそんなもの。誰かと出会って、別れての繰り返し。二度と同じ瞬間なんてないんだから。だから大切に大切に毎日を生きたい。
過去を肯定して背中を押すコロナ禍で生まれた傑作
誰しも時間は平等に過ぎ、時代も世の中も変わって進んでいく中で、ふと立ち止まって“あの頃”を思い出してしまう瞬間がある。そんな人生の機微を優しく包み込んでくれる愛おしい映画だった。一年のうちの“ある一日”の6年を切り取り、描き出す情景と描かない余白のバランスが絶妙。クリープハイプのアーティスト名の由来にもなっているジム・ジャームッシュの『ナイト・オン・ザ・プラネット』。アルバムの表題曲でもある、映画と同名の楽曲を、盟友である松居大悟監督が丁寧に映像で紡いでいく。コロナ禍で生まれた楽曲と映画が、コロナ禍以前の当たり前の日常の尊さを思い起こさせてくれた。今が悪いわけでも、過去に執着するわけでもない、ただ、“ちょっと思い出しただけ”なんだと。過去を肯定して背中を押す、松居大悟監督の、ある到達点に達した瞬間をみた。
誰にでも甘酸っぱい記憶
余韻に浸ってます。
観た直後は東京の街の見え方がちょっと変わりそうな、そんな映画。当たり前だけど、こんな大都会でも一人一人の暮らしがあって、感情があって、全てがドラマなのだと気付かせてくれる。
タクシーでのシーン。東京の夜景と共にドラマがある。すごく綺麗。情報によると、ちゃんと車を牽引して撮影したらしく、その丁寧さがちゃんと映像に残っている。
最近のドラマ見ていると、そこが手抜きなのがすぐバレて冷めるのよね。
そして池松くんと沙莉ちゃんコンビ、素晴らしいね。
最初から実は若干会話が噛み合わないところが、その時はあまり気にならず、結局別れる原因になるのも会話の噛み合わなさだったりする。あるあるかよ!?!分かりにくく、丁寧な伏線。すげーな!丁寧だな!
そして、あの池松くんの優しい口調なに?!好きになっちゃうんだけど!たぶんね、たぶん、ダメ男の部類に入ると思うのよ!映画はそこをピックアップしているわけじゃないから分かりにくいけど、たぶんダメ男!でもいい!わかる!
2人とも芝居も丁寧だわー。いいなぁー。
そして脇役が豪華。
言えるうちに言っておいたほうがいいですよ。メーター、止めましたから。
7月26日を、ずっと遡る。環境や風景や付き合いや髪型がどんどん元に戻っていく。でも、変わらないものもある。ずっとそこにあったのに、こっちの心の変化のおかげで変わってみえたもの。それは、過去から未来へのスムーズな時間経過では気付かないものだ。たとえば、古い建物が壊されて、空き地になって、新しいビルが建ったとしても、なんの感慨も湧きはしない。ところがもし、定点カメラで撮った写真を、1年ごとに巻き戻していくと、ああ、ここにはこんな味な古民家があったのか、あんな風景が眺めることができてたのか、って懐かしいような勿体なかったような、そんな郷愁に襲われると思う。この映画は、あるカップルをそんな視点で見つめた映画だ。そこに、ある時の自分を投影もするし、その時付き合ってた彼女の面影を思い出しもする。それは先日の『ボクたちは大人になれなかった』を観た後の心のしこりに似ているし、『街の上で』や『愛がなんだ』でも同様のセンチメンタルな感情に襲われもした。結局、映画の楽しみの一つは、過去の自分との再会とか、主人公に仮託する自分の憧れ、そういうものが満たされたときに、うれしい涙を流してしまうことなのだろう。
ラストの葉、自分には幸せにみえた。それは彼女が今の生活に満足していると思えたからではない。ベランダにもたれた彼女から、思い出した時にふと微笑むことができる過去が自分の中にあるって確かめられた、そんな笑顔を観ることができたからだった。そう、マスターに問いかけられたテルオがはにかみながら「ちょっと」って答えるのも、たぶん同じ感情だったのだと思う。
そして僕がそこに共感してしまうのは、今日、"誕生日"クーポンを使って一人ぼっちで観たせいかもしれない。欲しいものを手にすることだけが必ずしも幸せだとは限らないよって、今の自分を肯定してくれたような気がした。
そうそう、尾崎世界観、かれの風貌と貫禄、いい時間の流れを醸してたなあ。おまけに音楽がばっちり映画の"世界観"に嵌ってた。『八月は夜のバッティングセンターで。』のエンディングを思い出しながらきゅんとしちゃった。
ちょっとわからなかっただけ
高円寺もの。
ちょっと思い出すくらいの人生が良い
予備知識ほぼゼロで鑑賞。
時間の遡り方がはっきり認識できなくて最初の方は少し頭を使ったが、思考が整理できてからは作品に入り込むことができ、上映時間も含め好印象の作品になった。
とても印象に残ったのは別れのシーンとなるタクシーの車内での二人の会話。
池松壮亮の「ちゃんと自分の中で結論をつけてからその先どうしようか考えたかった」的な返事に対し伊藤沙莉さんが放つ「それは相手の事を大事にしたいと感がえている自分が大事なだけ」的な言葉に自分自身を振り返り心打たれました。
見終えた後に一緒に鑑賞したパートナーにその話をしたところ、女性として非常にわかる台詞だけれど、言ってはならない一言だったかな、との反応でした。
互いに真実、されど言ったこと・言わなかったことが引き起こす継続や別れの分岐点になることがあるのだなあと考えさせられました。
とは言え長い人生、題名にもあるように少し時間が過ぎてから「ちょっと思い出した」程度の記憶になっていて今の暮らしが幸せと感じられることが一番かもと思いました。
カップルで見て感想を語り合うのにオススメだと思います。
ちょっとの先に
久方ぶりの映画。良い時間でした。
50代夫婦で鑑賞しました。エンドロールの中で、夫にも私にもそれぞれの胸に去来した“ちょっと思い出しただけ”がありました。大事な人だからこそ、本当の気持ちを伝えないといけないという事をさり気なく伝えています。主演のお二方、本当に素晴らしかったです。あの役は、伊藤沙莉さんでないと出来ない役だなと思いました。思い出した瞬間の照夫の表情に、すべてが語られている感じがしました。バレンタインデー直前の公開だったのも良かったですね。久方ぶりの映画。良い時間でした。ありがとう。
トキメキへの時間旅行
別れてしまった二人が、ある邂逅をきっかけに出会った頃までの記憶を遡っていく。このフォーマットは時間軸がトキメキの方向に向かっていくため、互いに重荷となってしまった愛情のコリが徐々にほぐれていく。照生と葉が、自然な磁力で惹かれ合い始めるあの場所にたどり着くと、不思議な気分が湧き上がってくる。
自分のとっておきの思い出が、照生と葉の時間旅行にシンクロするかのごとく蘇ってきて、二人のラブストーリーと自分のラブストーリーがオーバーラップする。それは、現実とかけ離れたキラキラとした恋物語ではなく、等身大のラブストーリーを個性豊かな俳優陣が彩っているからではないかと思う。
タクシーという空間は、乗客は気が緩むこともあって、素の自分をさらけ出してしまう。その空間に伊藤沙莉がとてもフィットする。独特にハスキーな低い声での会話劇は、飽きることなく見ていられる。
國村隼、永瀬正敏、成田凌など主演級を演じる俳優達が脇を固めているが、自然体で楽しそうに演じている。脚本オリジンのキャスティングで実力が伴った演者が集結した作品は、見ていて気持ちがよい。こういう作品をもっと見たいね。
永瀬さんだけ進んでる
タクシードライバーをする葉と舞台の照明のスタッフをする照生2人の恋を徐々に遡りながら描いていく話。
ジム・ジャームッシュの『ナイト・オン・ザ・プラネット』から尾崎世界観が「ナイト・オン・ザ・プラネット」の曲を作って、さらにその曲から今作が生まれてるので至る所にジャームッシュ要素がちりばめられてて良かった!
まず、葉のタクシーに乗ってくるお客さん達は『ナイト・オン・ザ・プラネット』にも出てくるお客さんを明らかにモチーフにしてる人が沢山いて、酔っ払い3人のおじちゃん達はヘルシンキとパリ(酔っ払いが運転手に怒られる)のミックスだと思うし、明らかにロスのウィノナ・ライダーとジーナ・ロランズな伊藤沙莉と高岡早紀。
告白する時に背中を押してくれるタクシー運転手のおじちゃん、タクシー運転手の葉が運転せずに乗ってるというシュチュエーションと、やたらゆっくりな運転とあの間の抜けたような雰囲気は絶対ニューヨークの移民のタクシー運転手オマージュ。葉と照生だけじゃなくて、タクシーに乗り込んでくる色んな人との絡みもちゃんと描いてくれてたの良かった。
あとは、基本的には同じ日照生の誕生日を1年ずつ遡っていく話だけど、公園のベンチで妻を待ってる永瀬正敏さんだけは時間が進んでいるようにも見える(ずっと奥さんを待ってて、やっと会えたっていう話に見える)仕掛けが私はすごく好きだった。この時間を超越している感じってジム・ジャームッシュっぽいなと思った。
『ナイト・オン・ザ・プラネット』も同時刻に世界各地で起きていることを描きながらも、陽が沈む時に始まり陽が昇るところで終わってちゃんと時間は進んでる。この映画も過去の同時刻を描いて、毎回家を出る様子しか描かれなかった照生が最後にはちゃんと家に戻ってくる。昔の恋を回顧するというエモにひっぱられそうになるけど、この不思議な時間の旅の雰囲気が良い。
ちょっと思い出す過去は宝物
主役の2人の演技が秀逸。何より2人の声が、もうそれだけでノスタルジー。感情をデフォルメするような発声の間や抑揚に引き込まれてしまい、役者にとって声は武器なんだなと確信した。
東京はキラキラで、エネルギッシュだけど、故に孤独を痛感する街でもあって、葉や照男のように真面目で繊細な若者は、日々葛藤しながら、愛や夢を求めて生きている。そんな不器用な2人の恋愛は、ドキュメンタリーみたいに自然な演技で、終始キュンとした。
タクシーの乗車客には、いろいろな人間模様が垣間見れるように、どの登場人物にも抱えるものが見て取れ、群像劇にも思えた。
また、余計な説明が少なくて、こちらがあれこれ想像できる余白のある映画だった。良質な本や映像作品は、そういうものだよなぁと改めて思った。
最後の場面、葉は、自分の恋愛を昇華して、今の自分や、過去の諸々、そして人生を肯定したのだなと解釈。思い出はやっぱり宝物!
日常系。でも見れちゃう
愛しさと切なさと伊藤沙莉と
松居大悟作品は初めてだったが(福岡では彼のエキセントリックな母親が悪目立ちしていて、彼自身にも色物感を感じていたので)、凄く良いじゃない!今まで食わず嫌いしていて申し訳ない!
とにかく主演の二人が滅茶苦茶良くて、特に会話シーンは、どこまでが台本通りでどこからがアドリブなんだろうと思ってしまう程、自然で軽妙でリアリティが有った。
また、クリープハイプの曲からの『ナイト・オン・ザ・プラネット』でそこからの逆算でヒロインがタクシー運転手という設定なのだろうが、この恋愛映画史上初なのではと思えるヒロインの職種というのが、実は凄い発明なんじゃないかと思った。それによって(その職種を選ぶという事で)葉という女性の為人がなんとなく掴めるし、同じ構図(に成らざるを得ない制約上)でも微妙に違っている(差異を見せられる)というのが、映画の主題にも上手く合致していると思う。
ともあれ、『ブルーバレンタイン』等に連なる〝楽しい過去が描かれる程切なくなって来る映画〟の新たなマスターピースの誕生に今は酔いしれよう!
ちょっと物悲しくて、笑えるいい映画です。
説明のバランス
メメントのラブストーリー版
2022年劇場鑑賞42本目。
最初混乱しますが(うわっ、浮気しておいて何いってんの?みたいな勘違い)「メメント」のように一年ずつ過去に逆上って結果から始まりを描いていくといった趣向になっています。永瀬正敏の役だけもしかしたら時空を超えたファンタジーの存在なのかもしれません。
やっていることは「花束みたいな恋をした」に近いのですが、描き方で斬新な映画になっていると思います。
しかしです。過去と現在を行ったり来たりして描くラブストーリー(最近だと奇しくも同じ池松壮亮主演の宮本から君へがそうでした)はよくあるのに、こういった結末があって遡っていくとただただ切ないんですよね。そこがいいという方がいるのは理解しますが、自分にはただただ辛い時間でした。ちょっと思い出すには結構長い時間でしたよ。
後、映画で喫煙シーンが出てくる時、普通はダークサイドに登場人物が属しているメタファーに使われるのですがこの映画だと自由のメタファーに使われていたのかなと思います。メタファーで普段喫煙しない俳優さんが喫煙されるのは見ていて辛いのですが。
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