「エマではない人間にエマと同じ感情を求めるのは無理がある」パーフェクト・ノーマル・ファミリー つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
エマではない人間にエマと同じ感情を求めるのは無理がある
主人公エマの視点で、父トマスの変化、家族の変化を見る、実に繊細な物語だ。
エマの中にある戸惑いや恐怖、家族への愛などを語ることなく伝えようとする映画らしいアプローチは好感がもてる。
しかしだ。もうちょっと何かあると期待していたところがあり、どうしても物足りなさを感じてしまう。
エマの中で起こる心の変化というのは、何も父親の性自認のカミングアウトがなくともありえることだ。この普遍性が、だからこそいいともとれるけれど、やはり、エマならではの葛藤が見たかった。
こんな感じの、悪くいえば特別さのない物語の場合、監督の経験に基づいてたりするんだよなと思ったら、やはりそうだった。
監督自身の経験、つまり、その時受けた衝撃とか葛藤なんかを描くのだが、監督本人が受けた衝撃によって気付いたものや変化を明白に認識できていない場合、どうしてもフワフワした曖昧なものになる。
自身の経験を観る側に疑似体験させてくるわけだが、もちろんコチラはエマではないわけだし、エマの置かれた状況に対する反応も人それぞれなのだから、一番肝心と思われる「共感」が生まれにくい。
個人的に、トマスの子どもだった場合を想像しても、最初はある程度の衝撃を受けるだろうが、エマの姉がとったように全受け入れになると思う。
ハッキリ言って子の立場では親の性自認なんてどうでもいい。
逆に母親は辛そうだなと思う。自分の夫はある意味で自分のことを愛していなかったのだから。
愛していないのに夫婦のフリを長年されてきた衝撃は大きいだろうと思う。
まあそれでもエマの中で起こっている感情の波を丁寧に描いた良くてきた作品だったと思うし、何よりそれなりに面白く観たので星は4つにする。
すでに書いたように、もう少しだけでも「刺激的」であったならと残念には思う。