「後見人描写のリアリティと全員悪人のエンタメ感」パーフェクト・ケア ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
後見人描写のリアリティと全員悪人のエンタメ感
前半では、アメリカの成年後見人制度のエグさにとまどいつつ、冒頭から見せつけられるマーラのヴィランぶりに、強い悪役が現れた時のワクワク感を感じた。
後半はどんどんバイオレンスに傾いてゆき、マーラのメンタルとフィジカルのあり得ないほどのふてぶてしさを見せつけられる。こちらはもはや口をぽかーんと開けて「マーラすげえ……」となるしかない。
マーラの後見人としての振る舞いがどこまでリアルなのか気になってちょっと調べてみると、NHK「BS世界のドキュメンタリー」で放送された「偽りの後見人」という番組の情報を見つけた。2018年にカナダで製作された、ネバダ州の後見制度を悪用した犯罪のドキュメンタリーだ。
高齢者が病院にかかった後に、後見人を名乗る人物が自宅に現れ、本人を介護施設や精神病院に送り込んで薬漬けにし財産を奪う、こんな行為が州内で横行したそうだ。しかもその後見人は裁判所によって選任された合法な立場にあり、偽りの報告書を作成した医療助手や補助裁判官もグルだったという。親族が訴えを起こしても裁判所が却下し、結果的に後見人の行為にむしろお墨付きが与えられてしまう、といったことが多発した。
現地マスコミがこの問題を報道するようになってからようやく一部の後見人が逮捕される、ということがあったという。
この内容を見る限り、作中での後見人の描写はそんなに誇張されたものではないのかも知れない。曲がりなりにも一見合法で他人の財産をあそこまで勝手に処分出来る手段が存在することに、背筋が寒くなる思いがした。
一方、後半でマフィアを相手取っての殺るか殺られるかの攻防は、マーラの腹の据わり具合とローマンのマフィアの矜持が共に見事で甲乙付け難く、もうどっちが勝ってもあっぱれという、社会問題よりエンタメに振った楽しい気分で見ていた。
死にそうな目に合わされた後、採算度外視で適法性もぶん投げてマフィアを叩きに行くところなど、不覚にもカッコいい。下手したら何もかも失う無謀な行動を自然に見せるロザムンド・パイクの存在感も素晴らしい。こりゃマフィアに見込まれますわ。
通奏低音として散りばめられたフェミニズム描写は、マーラのマフィアと対峙してなおひるまない強さに説得力を持たせている。彼女を口先だけで脅してきた男たち、確執ある母親への憎しみに、彼女の金への執着と度胸の源泉があるのかも知れない。
ラストはマーラというキャラクターの因果応報もあるだろうが、マフィアも消せなかった悪徳後見人の象徴のような人間を被後見人の家族が撃ち殺すというところに、現実の後見人制度への強烈な批判が込められているように見えた。ベタだがきちんと座りのいいところに落ちて、すっきり満足。