カード・カウンターのレビュー・感想・評価
全11件を表示
地味な展開の中、オスカー・アイザックの存在感で語られる戦争の傷
タイトルの、ギャンブラーの華やかな話っぽい印象とは違い、イラク戦争に関わった元兵士の複雑な心の闇を淡々と覗き見るような映画で、話の展開は基本的に地味だ。
カードカウンティングのやり方やカードゲームの心構えなどについてごく簡単な説明こそあるものの、ゲームの場面で勝負のゆくえにドキドキするような盛り上がりはない。
父の仇を討つためウィリアムに声をかけてきたカークは、ほぼ彼についてくるだけだ。ウィレム・デフォーは序盤でチラ見せされた後、なかなか出てこない。
戦争に人生を狂わされた男を静かに演じるオスカー・アイザックが、見応えの肝だ。主人公ウィリアムがあのような人間になった背景については映画の中で簡単に説明されてはいるが、ウィリアムのトラウマをより正確に理解するには、もう少し知識を補完して見た方がいいかもしれない。
イラク戦争中に大規模な捕虜虐待が行われていたアブグレイブ刑務所。虐待の様子を撮影した大量の写真や映像が残されており、この事実が報道された当時にその一部が公になっている。非人道的な扱いをされるイラク人捕虜に並んで、満面の笑顔の男女米軍兵士が写っているものも複数あり、刑務所内の雰囲気の異常さがうかがえる(映画の中でも虐待場面の回想はあるが、実際の写真と比べるとインパクトに欠ける。女性兵士が虐待する姿も描写されていたのは、歪んだ忖度がなくて正確だなと思った)。
この事実が明るみに出て、刑務所が閉鎖されたのち、軍法会議では現場の兵士たちのみが有罪とされ実刑を受けた。しかし、彼らの中には刑期満了後インタビューに答えて、FBIとCIAが虐待を奨励していた、写真撮影も命令によって行われたと証言する者もいる。ザ・ニューヨーカー誌は、ラムズフェルド国防長官(当時)の承認があったと報道した。しかし、上層部は誰一人責任を認めないままだ。
そもそもイラク戦争自体、開戦の理由のひとつとされた大量破壊兵器が存在しないなど、大義の崩壊した戦争だ。
信じていた国が示した間違った大義のもとに、人として許されない罪を犯した自分。捕虜虐待をおこなった罪悪感と、共犯とも言える上層部が責任を取らない不条理への怒り、それらの感情から自分が解き放たれることはないという諦念。ウィリアムの強い厭世観は、そういった背景から来ているのだろう。勝負に勝つたびにUSA!を連呼する星条旗柄のUSA野郎は、そんなアメリカへの分かりやすい皮肉だ。
ウィリアムには未来の希望がない。希望を持たないことが自らへの罰なのかもしれない。そんな彼の前に現れた、父の復讐を画策するカークを憎しみの連鎖から救い出すことで、自らの贖罪を果たそうとするが……。
カークを母の元に帰すためとはいえ、終盤でウィリアムがいきなり拷問ばりに彼を脅したのにはちょっと驚いてしまい、カークが何か裏切りでもしたのかと思った。アブグレイブでの出来事によりウィリアムの人間性が歪められたことの表現だろうか。
元の生活に戻る約束で金を受け取り、ウィリアムと別れたカークだが、結局父の仇であるゴードを討ちに行き、殺されてしまう。カークを殺された恨みが新たに重なって、ウィリアムはトーナメントの決勝を放り出し、ゴードの元へ向かう。
これらの場面が物語のクライマックスなのだが、カークの顛末はネットニュースだけでナレ死状態だし、ウィリアムがゴードと対峙する場面は、いよいよアクションかという時に二人が別の部屋に行って画面から消え、なんか痛そうなことをやってる(やられてる?)声だけが聞こえてくるという激渋演出。
私はお子様鑑賞眼なので、せっかくビジュアル的に盛り上がりそうな場面なのに肩透かしに思えて少々がっかりしたのだが、巨匠なりの意図があるのでしょう。
とはいえ、オスカー・アイザックの演技と存在感が物語のテーマを雄弁に語っているので、地味展開でもウィリアムのキャラクターに関する説得力は十分。
ポーカーフェイス…
暗い過去を封印し、ガジノ街を転々と目立たず静かに暮らしていたギャンブラー。自分と似た境遇の青年の人生を再生しかけたが、青年の死により、因縁の元将校に復讐を果たす。あまりにも淡々と描かれ、BGMも無いことから、主人公自身の過去への情感が伝わりづらく、共感を呼ばなかった。睡魔に襲われた。
過去を忘れることは出来ず
8月27日にたまたまクロムスカルリターンズの上映が行われる京都みなみ会館様で来月にも閉館ということを知り、少しでも営業に貢献できたらと思って上映中作品のフライヤーの一覧を見てみたいなあと思って鑑賞。決して内容を把握した上で鑑賞したわけではありません🤣
だからこそ、内容にのめり込みやすかった。
ポーカーやジョーカーといったカジノでのギャンブラーとしての生活をしながら各地転々と移動する主人公には、かつて収容所における行為で罪に問われ服役するが、実はこの逮捕劇は仕組まれていたもので、濡れ衣を着せられた汚名を晴らすべく同じく裏に闇を抱えた相棒とのカジノ巡りをしていく中で運命の出会いが訪れる。
最終的には、殺人を犯す形で復讐を果たし、罪の意識から自ら通報するのだが、恋人になった女性の優しさが痛感させるもので、それが主人公の心の救いならば彼女の存在があってよかったなあと思う作品でした。
TILT
まさかの一日5作品鑑賞、その①。
ここでレビュータイトルだけチラ見して、ギャンブル映画じゃないことは把握していた。
しかし、ここまで絡まないとは思ってなかった。
「小さく賭けて小さく勝つ」がモットーのウィルが、一度は断ったリンダの誘いに乗り、大会に出場する。
その理由が明かされるシーンは、豹変具合もあって息を呑んだ。
これが彼なりの贖罪だったハズが、逆にその関係が復讐をさせる皮肉。
カークとウィルが出会わなければ、お互いに実行まで至れなかったかもしれない。
ニュースで済まされるカークの顛末も含め、物哀しいものがある。
しかし、中盤までの会話劇は退屈で、ギャンブルの解説も本筋には活きない。
イルミネーションの中、手を繋いで終わるウィルとリンダは中学生か、と。
(ウィルがカークに提示した“交換条件”で、別の見方ができるとはいえ…)
魚眼レンズを用いて異色さを際立たせた刑務所のシーンは良かった。
ただ、ギャンブル要素が金を作る手段でしかなく、タイトルやポスターに違和感が残る。
せめてもう少し起伏がほしかった。
とてもよかった
セブンブリッジで小さく勝つギャンブラーの話なのだけど、途中からポーカーしかしないし、最終的には試合を放棄してしまう。カードゲームでのクライマックスを期待していたので肩透かしだが、また別のトラウマと向き合う問題もあるので、仕方がない。
ラストシーンは、お互いに拷問をして主人公が生き残ったのかな?一方的に痛めつけているのかと思ったら、主人公もボロボロになっていた。
友達の息子というだけの関係の若者にお金をあげたり、彼を未来に導こうとする主人公が美しい。
フォースドリフト=ティルト
『それはひとえに、「敗北という事実」が強烈なまでに心をかき乱すからに他ならない』というのが、意味とのことを観賞後のネットで調べた 逆もありえる どんどん勝ちが続くと自分の実力だと勘違いしてしまう そしてコイントスの如く、一気にハシゴを外される
拷問とカードゲーム、このテーマを結びつけた制作陣は流石だと感嘆する
アブグレイブ、グアンタナモ、この世の地獄を演出するロケに成り果てた彼の地は、魚眼レンズ越しにその悪行を余すところ無くスクリーンに映す もうそこには"尋問"という理由など当に失せている する側される側、そのPTSDは、倫理的を置いておいて、かなり同等だということである そんな地獄の贖罪を法律的には全うした男の拭いきれぬ罪と罰を"ギャンブル"という特異な精神世界に委ねることで禁欲性を発揮するギャップの大きさに取憑かれた男のストーリーである
そんな男が出会う人間は二人 同じ境遇にいた男の息子 そしてなるべく穏当に暮らしていた自分をみつけた女 何とか息子を怨恨から脱却させたい それが今の自分の罪滅ぼしとして、赦される理由になるのではと思った男は、金と暴力をちりすかせ、強引に怨恨を断ち切る断ち切る手段に出る しかし、カードカウンテイングのように数字を記憶する事は人間では当てはまらない それは表題のように慢心が産んだベットであった あれだけ脅したのに、それでも復讐の実行に手を染めそして返り討ちに遭う・・・ その一連のターンに男は気付く筈
これは、代償行為に他ならない 本来は自分が手を染めるべき案件だったのだと・・・
それでも、元に戻った刑務所に於いて、面会に来た女の少しやつれた顔に、思慕が沸々と沸き起る事は決して間違いではないと信じる
(チャイナマネー等々)少々政治色の強い、色々な勘ぐりが頭をもたげる作品ではあるが、しかし抑揚を抑えた質実剛健な世界観に堪能する 溜息混じりの劇判も又彩りを添え、アメリカ各地のカジノの何故だかノスタルジーを醸し出す印象作りも一層の表現作りへの帰依を重層的に描いた良作であった
作中では、正にギャンブルの解説、拷問の説明と、凡そ自分の世界とはかけ離れた"異世界"を解説しているので、Rー指定になるのも当然であろう 一度悪に頭の天辺まで漬かった人間が、愛で洗い流せるのか、その答は観客への宿題だ・・・
技の世界ではなく。
目立たず勝つ渋いカードギャンブラーの才能をみる?
封印していた愛や孤独を放つ?
過去のトラウマはあの布のように彼に巻きつきながら復讐を待つ。
その余韻は梅雨のように、そして彼のポマードのように湿っぽくじっとりと重たい。
主人公と同様、多くを語らない映画
腕は良いものの、派手な賭け方をせず、ひっそりとカジノを渡り歩くギャンブラーが主人公。
元軍人、刑務所上がりの凄腕ギャンブラーという主人公の設定だけで考えると派手な映画を想像するが、主人公のキャラクターと同様、淡々とした渋い演出が続く。このような演出が作品終盤のインパクトをより大きく感じさせるといった緩急がある作品になっている。
誰でも多少の自分ルールを持っていてそれに従って生きているが、自身の本音や信念を尊重するためにそれを破らなければならない局面が訪れる。
そのような局面での葛藤を感じた経験がある人は、本作をより楽しむことができると思う。
オスカー・アイザックの演技は細かいね。
ストーリーは興味深いがブラックジャックとかいう賭け事は聞いたことがあるだけで、「カード・カウンター」の意味なんて知らないし、深く観賞できないと思いながら見ていたが、賭け事は焦点ではなく、苦難の中、ブラックジャックで踏み出して行こうとする、一匹狼のウィリアム・ティリッチ(ウィリアム・テル:オスカー・アイザック)の人生が焦点だと分かった。その人生も、閉ざされた心が開いていくところに興味があった。彼が自分の気持ちを素直に表現できるようになっていったシーンとウイリアムがロビン・フッドのような「ウイリアム・テル」になっていったシーンの2点が心に残ったので、ここに書き留める。
まず、元上等兵(PFC)のウィリアム・ティリッチは軍の刑務所で8年の刑期を終えて、学んだブラックジャックの「カード・カウンター」で人生を再スタートさせていくように見える。特殊作戦兵士としてイラクのアブグレイブ捕虜収容所で自らが犯した罪に苦しみ、刑務所で服役した後、ブラック・ジャックをして出直そうとしているようだ。彼の性格は良くも悪くも、はかりしれない才能のある人間(カード・カウンターだから)で、ザ・コンサルタント(2016年製作の映画)のクリスチャン ウルフ (Ben Affleck)high -functioning Autism(HFA)のような自閉症(Autism )かアスペルガーのような才能の人である。軍や刑務所で培われたのかもしれないが、同じことの繰り返しが自己満足させるようである。カジノには宿泊せず、モーテルに泊まる。モテルに入るたび、彼はシーツを広げ、すべての家具を白のシーツで覆い紐で固定する。彼のかつての上司ジョン・ゴードも同じようにシーツで覆い紐を結ぶ。その理由はわからないが、イラクのアブグレイブ捕虜の収容所での拷問や虐待の悲惨さを白の布で覆うことにより、潔癖さを証明したいのか、それとも、ただ、収容所でコードに習ったから癖がついたのか、検討がつかない。ウイリアムの悪夢から察するとイラクのアブグレイブではかなり酷い拷問があったようだね。
それに、疑いを持たれないようにするため、ウイリアムはギャンブル哲学を持っている。それは少額かけてある程度に勝つことである。
心に残った2点のシーンは:
1)ウィリアムがラ・リンダ(ティファニー・ハディッシュ)の宿泊しているホテルにいって、「カーク(タイ・シェリダン)が去る前に約束したんだよ。カークはあなたのことをよく話していて、.........約束したんだカークに。自分の気持ちを行動に移すって...........』ウイリアムはまっすぐ彼女の顔を見られないし、感情を表さないが、ドキドキしている様子が手にとるようにわかる。それに、流れてくるロバート・リーボン・ビーンの歌詞もいいねえ。I was drifting back in and out of space.......(Arise Sun) 収容所や軍の刑務所で女性付き合いもなさそうだっだ。このシーンはウイリアムは自分を変えようとして変えたシーンだ。自分を素直に表現できたシーンだ。明らかに、周りくどく、単刀直入の表現じゃないけど、ラ・リンダに対しての愛の表現が出ている。ウイリアムの勇気ある行動に感激。
2)もう一つは、カークについてこいといって自分の宿泊しているモーテルに連れて行った時のシーン。カークはシーツで覆われて固定されたベッドや家具を見て呆れていたようだ。私はこれから何が起きるのか心配だった。ウイリアムの凶暴性が出てきて、まさかカークを殺しやしないだろうと落ち着いていられなかった。しかし、ポーカーで稼いだ賞金はカークの大学の授業料、必要経費、クレジットカードの負債などを払ってあげるお金で、ポートランドの母親のもとに帰れ、父親を自殺に追い込んだゴードンを追うなと。カークの一切を引き受けてあげることは若いカークの将来を見据えてしていること。ウイリアムも似たような過去を経験していたのかもしれない。カークに二のまえを踏ませたくないという寛大な心から出たことだ。ウイリアムにとって、人のためにできることが前は何もなかったんじゃないか。
収容所と軍の刑務所に長年いて暴力行為が日常化してしまったり、彼のアスペルガーのような性格もあるが、同じ日常を過ごすことで 感情を無くしてしまったようだが、カークのことを考えられるようになったし、ラ・リンダを愛情を伝えることができるようになったことは人として成長したと思う。
最後にラ・リンダが刑務所を訪れたシーンだが、誠に切なかった。しかし、ガラスを通して、二人の人差し指に、お互いがぬくもりを感じたら、二人はまた一緒になると思った。
オスカー・アイザックの演技だが、バーでラ・リンダがウイリアムの頬に最初にキスしたシーンだが、キスの後、さっと身を守るシーンが強烈だった。細かく、気づきにくいシーンだが、アイザックの人に近寄られたくない、人に慣れていない雰囲気がよく出ている。その次の頬へのキスシーンは全く違う。アイザックの演技には感心した。
全11件を表示