「一味違うスペイン語圏のシニカルな笑い」コンペティション 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
一味違うスペイン語圏のシニカルな笑い
ペネロペ・クルスとアントニオ・バンデラス、どちらもスペイン出身ながらハリウッド大作や欧米の合作映画にも度々起用される国際派スターだが、意外にも本格的な共演は今作が初めてなのだとか。バンデラスは自身に近い世界的に知られた俳優フェリックス役で、自信過剰な俺様ぶりを嬉々として熱演。一方のペネロペは天才監督ローラに扮し、型破りな演出でフェリックスともう1人の老練な舞台俳優イバン(アルゼンチン出身のオスカル・マルティネス)を翻弄していく過程をクールに、時にシュールに体現する。
「コンペティション」(「競争」の意味)というタイトルと、映画業界の話という事前情報から、勝手に映画祭がらみのストーリーかと思い込んでいた。だが実際にはローラと、彼女の新作映画に出演するフェリックスとイバンという3人の映画作り(とはいえ撮影に入るまでの読み合わせとリハーサルのシークエンスが本編の大部分を占める)における競い合いを指すのだろう。幾層にも重なるメタ構造も映画好きにはたまらない。俳優2人がそれぞれ演じる俳優の役で、演技スタイルも性格も水と油のフェリックスとイバンが演じるのは不仲の兄弟。そしてもちろん、本作は映画作りの映画でもある。
共同監督を務めたガストン・ドゥプラットとマリアノ・コーンは、ともにアルゼンチン出身で、1990年代後半からコンビでテレビ番組、ドキュメンタリー、劇映画をコンスタントに作ってきたようだ。スペイン・アルゼンチン合作の「コンペティション」に漂うブラックコメディ風味は、やはり両国合作だった「人生スイッチ」(製作はスペインのペドロ・アルモドバル)を想起させる。英語圏のユーモア感覚とはまた一味違う、スペイン語圏のシニカルな笑いが共通するように感じられた。