「シンプルながら力強いメッセージを放っている」あのこと ありのさんの映画レビュー(感想・評価)
シンプルながら力強いメッセージを放っている
アンヌはたった一度のセックスで妊娠してしまい、堕胎を決心する。しかし、1960年代のフランスでは中絶は違法で、大きな罪とされていた。彼女は成績優秀で周囲からの期待も大きい優等生である。世間体のこともあり家族や友人に相談できず、医者に打ち明けたとしても力になってくれる人は皆無で、どんどん絶望的な状況に追い込まれてしまう。
本作には原作があり(未読)、原作者本人の実体験を元にしているということだ。本作のアンヌのように、原作者もさぞかし苦しい思いをしたのだろう。
物語は非常にシンプルである。過去には「JUNO/ジュノ」や「4ヶ月、3週と2日」等、同じテーマを扱った作品があるし、かつての人気ドラマ「金八先生」の中では「15歳の母」という中学生の妊娠を描いたエピソードもあった。こうしてみると題材自体、決して新鮮というわけではない。
ただ、緊張感を持続した演出が素晴らしく、観ているこちらも終始、この息苦しさに押しつぶされそうなってしまった。
劇中には目を覆いたくなるような凄惨なシーンも出てくる。そこもカメラはカットを切らずに彼女の苦痛の表情を生々しく捉えている。特に、終盤はほとんどホラー映画のようなトーンになっていき、この畳みかけるような演出には戦慄を覚えた。
尚、フランスでは現在は中絶は容認されている。日本でも、もちろん認められている。しかし、世界を見渡せば、宗教上の理由から中絶を認めていない地域がまだあり、この手の話は決して過去のものではない。今まさに起こっている現在進行の話でもあるのだ。
もとをただせば、避妊をしてセックスしろという話だが、若さゆえの過ちというのは誰にでもあるわけで、現実問題としてそう単純に割り切れない面がある。それゆえ、この手の作品はいつの世にも通じる普遍性を持っているのだろう。