「人間関係に焦点を当てたサスペンス」パワー・オブ・ザ・ドッグ マンダさんの映画レビュー(感想・評価)
人間関係に焦点を当てたサスペンス
1920年代のアメリカを舞台に、牧場を経営する兄弟を取り巻く人間関係を描いたストーリー。
まず序盤では兄弟のすれ違い度合いがわかるようになっています。兄のフィルは弟のジョージを言葉に表さないけれど大切に思っているシーンが目立ちますが、ジョージはフィルの粗雑に見える振る舞いを嫌悪しているように見えました。そんなジョージが結婚したのち妻のローズ対して「孤独でないのは良いものだな」と涙ながらに言うシーンでは常に隣にいたフィルとジョージの心は通っていなかったということが彼自身の言葉で明らかになります。それまでの雰囲気で察していたけれど、実際にセリフとして表現されたこのシーンはとても見ごたえがありました。
また物語全体を通してフィルの存在感が凄まじく、序盤は謎めいているフィルの行動は、物語が進むにつれて彼の言葉で合ったり秘密が明らかになることで説得力が生まれます。そしてフィルはローズに対する仕打ちが原因でピーターに殺されてしまいますが、それでも最後までフィルに対する嫌悪感を感じることは無かったです。かといって作中の誰かに肩を持ちたくなるような感情も生まれず、ただフィルを取り巻く人間関係にひたすら注目してしまいました。
物語のラスト、窓からローズとジョージを眺めるピーターの構図も見ごたえがありました。フィルの存在に悩まされてきたローズとジョージが葬式の帰りにキスをするというのは決してフィルの死を悼んでの行いではないだろうし、それを見たピーターの笑顔は母の苦しみを取り除いた達成感によるものなのでしょう。ラストのピーターの表情は強烈な印象残すいい演技だったと思います。
時代は1920年代ですが、同性愛であったり、円満ではない家族関係など現代に生きる人々でも直面する問題がテーマとなっていました。ただ個人的にはテーマについて考えさせられるというより、人間関係を表現したエンタメを楽しめたというのが一番の感想です。