「【隔てるもの】」声もなく ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)
【隔てるもの】
この作品のエンディングの場面を観て、ふと......と言うか、よく考えてみて、背筋がぞっとするような感覚を覚えた。
僕たちのモラリティの外側で生きているからと云って、優しさや道徳心がないということでは決してないはずだ。
そして、いつの間にか、杓子定規でしか考えられなくなっている僕たちの社会。
(以下ネタバレ)
まともな教育など受けたことがなく、非合法な仕事をせざるを得ないテイン。
口がきけないというのは、逆らう術などないということのメタファーなのだろう。
しかし、優しさは人質のチョヒとの交流となり、子供たちを救うことにもなる。
チョヒを学校に送り届けるが、チョヒが学校の先生につぶやく”何か”は、僕たちの社会の現実だ。
決してチョヒが悪いのではない。
もし、自分がチョヒの立場だったら、同様にするかもしれない。
何かで隔てられたあちら側とこちら側。
人間の根っこの部分は優しさ等で繋がっていても、厳然と立ちはだかる価値観の相違があるのだ。
テインと妹との心温まる交流に対して、迎えに来た実の両親と兄に一礼をしなくてはならないチョヒ。
僕たちの世界には、相手を理解しようという気持ちよりも、もっと隔てるものが思いのほか多くあるのだ。
とても示唆的な作品だと思う。
テインの家でのしきたり、
学校でのチョヒと先生の間のしきたり、
学校に迎えに来た両親とチョヒとのしきたり。
発達に障害があったかもしれないテインは、殺し屋たちとの間合いも、道端で野菜を売るハルモニとの間合いも 自分では築けなかった。
そんなテインが、どうしていいかわからない混乱とパニックの中で、チョヒを帰したのかもしれませんね。
でもそんな彼だから、なおさら「チョヒのために厠の扉の前で手を叩こうと思いついた」、その自分から見つけた人間関係の小さな萌芽が、猛烈な感動をもって僕に迫りました。