「10年の月日を2時間で纏めると偶然の要素が出てくる。これをどこまで受け容れられるかで評価が分かれそうな美しい作品」余命10年 山田晶子さんの映画レビュー(感想・評価)
10年の月日を2時間で纏めると偶然の要素が出てくる。これをどこまで受け容れられるかで評価が分かれそうな美しい作品
「余命」と聞くと、大きな絶望と微かな希望が繰り返し起こる時間を想像する。ただ想像しようと努力しても、現状の私はそのような立場になったことはない。不治の病となると、その病について自分でどんなに勉強したとしても不安を消し去ることはできないだろう。
SNSを中心に反響を呼んだ小坂流加の同名恋愛小説が映画化された。数万人に1人という不治の病で「余命10年」と告知された20歳の茉莉(まつり)は、複雑な気持ちを様々な表情と言動で見せている。その茉莉を演じたのは小松菜奈。積み重ねてきている女優力がグングンと上がっているのを実感でき、特に、見え隠れする不満顔と笑顔が印象的だ。
茉莉の心を表しているような美しい背景が自然に馴染んで嬉しくなる一方、色彩豊かで可愛らしい勉強机で茉莉が多種類の薬を薬ケースに一つ一つ仕分けているシーンでは、恋物語以上の強さを感じた。
見終わった後は、茉莉の家族、友人、そして和人[かずと](坂口健太郎)の存在がいつまでも頭の中に残る。
キーパーソンでありながら脇役枠のリリーフランキーは、美味しく煮込んだおでんの具のようにどんな役でも違和感なく役柄の個性を存分に滲み出すので、今回もまた彼の演技に驚いた。
私は涙が止まらないくらい感情的に見ていたので、この映画に関しては、視覚面でも極力ネタバレにつながる可能性があることには言及すべきではない、と思っていて、全ての「起こること」や「言動」を自身で感じてほしいという立場だ。
「恋はしない」と決めて苦しみながらも充実した約10年が、2時間ほどに凝縮されて、隙間なく素敵に箱詰めされている。大画面を含め、買って持ち歩ける物ではないので、是非とも集中できる映画館で、この箱を開けてみてほしい。