「少しわかりにくい点もあるが、今週は意外にもこの作品は超お勧め。」ファイター、北からの挑戦者 yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)
少しわかりにくい点もあるが、今週は意外にもこの作品は超お勧め。
今年175本目(合計239本目)。
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(※)映画の趣旨通り、「韓国」「北朝鮮」という表記をしますが、それについて差別意識はない点は断っておきます。
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大阪市では韓国映画といえば、シネマート心斎橋さんなのですが、テアトル梅田さんでした。テアトル梅田さんはどちらかというとフランス映画のほか、学術系映画や「考えさせる映画」を放映するところがあり(逆にシネマート心斎橋さんは、笑って楽しんでなんぼ、という映画が多い)、「あれ?シネマート心斎橋さんじゃないの?」と思って、まぁテアトル梅田さんに行ったのですが、なるほどね…と思いました。
そうですね…。「単純に」割って話をするなら、2021年の「野球少女」(韓国映画/女性がスポーツに挑む映画)と、2021年(?)の「BLUE」(日本映画だっけ?/ボクシングをテーマにする映画)を足して2で割ったような映画ということになろうかと思いますが、そこで、タイトルにもある通り、「脱北者」という側面が入ってきます。なので、「単純で2で割った映画」というわけでもなく、ボクシングの描写も薄目で、どちらかというと上記に書いているように、韓国国内における脱北者の人権やあり方を描写する映画のように思えます。
日本でも時々、特にこの時期(11月~2月、要は、冬)には、北朝鮮籍の漁船が日本海まで漂流して脱北者の方が乗っていることがニュースで取り上げられることがあります。日本は北朝鮮を国として承認していないという事情、さらに、「北朝鮮からの脱北行為にあたるとしても、北朝鮮に送り返すのは人道的にまずい」(最悪、諸外国からパッシングを受ける)という事情から、中国を通して韓国に送り返しているのが実情です。日本はそうですが、北朝鮮→韓国の場合、主に中国を経由して脱北する類型が多いようです。
意外だなと思ったのは、韓国では北朝鮮を余り敵対視することなく「未来は一つの国になれたら良いですね」という形で、あまり刺激しない形で教育されていると思ったところがあったのですが、韓国国内でも脱北者に対するイメージは良くないのか、中にはかなり差別的な思想の持主の方もいるようです(ただ、それは日本の「思想良心の自由」と同じで、一定程度は仕方がないし、思想を国が強制することは、民主主義である韓国においても、当然できない)。
本映画が日本で公開されたのは、韓国における脱北者の人権の在り方などを伝えるという趣旨もあると思うのですが(もっとも、それは韓国では常識扱い?)、より広く、「脱北してきた方の韓国での扱いを広く知って欲しい」という趣旨にも思えます。それは直接的には私たち日本人がかかわることではないですが、行政書士の方や合格者の方には、外国人問題にアンテナを張っている方も多く(私は後者の類型)、このような映画が公開され見ることができたこと、それ自体が良いことなのだろうと思います。
映画そのものは完全に架空のお話ですが、脱北してこられた方が韓国国内でバイトだの何だのやっても経済的に詰まってしまうことは明らかで、あのように「ビッグマネーを夢見て挑戦してみる」というのは十分ありうる話であり、また、韓国国内における脱北された方の描写についても概ね妥当な描写がされているとは思う点で「史実ものではないが、それに準じるか、ないし、広く、脱北(きわめて広く言えば、難民問題)された方のことについて隣国(=日本)でも考えて欲しい」という点は理解でき、その点は十分理解できました。
※ 北朝鮮からみて、隣国は、ほか中国とロシア(海を考慮すれば、日本も該当する)がありますが、中国やロシアで公開して「人権意識を…」と言っても難しい点があるのもまた事実で(人権に対する考え方がまるで異なるため)、そこは「日本で公開された点」に意義があろうかと思います。
評価は満点にしようかと思ったのですが、下記のみ気になりました。ただ、大きな傷ではないので、七捨八入で満点にしています。
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(減点0.1) 序盤に「支援センター」という表現が出ますが、そこで何をやっているのか…という描写が薄いです。韓国には「北朝鮮離脱住民の保護および定着支援に関する法律」があり(日本語表記は、大阪市立図書館の調査結果に合わせています)、それに準じて、韓国で暮らすことを前提として、およそ2~3か月、「韓国の国語」「韓国における生活のルール」などを教育した上で、アパートと500万ウォン程度(日本円で50万円相当)が支給され、3~5年でさらに分割支給されるそうです。
※ もちろん、明らかに犯罪組織の脱北に対しては適用されず強制送還されるようですが、法の趣旨からして「多少の犯罪行為」は甘く審査されているようです。
序盤に「ここが住むことになったアパート」といった点や「まだ韓国語に慣れていないの?」というセリフはこれを反映したもので(2~3か月で、韓国語を完全にマスターするのは難しい)、この点はやや説明不足かな…と思えました。
(減点0.1) ストーリーとしてボクシングの要素は少なめですが、出ることは出ます。ただ、ボクシングジムなども含めて看板の大半に翻訳がありません。大会なども含めてです。もちろんボクシングがテーマなので、韓国語で何が出ようが「勝負」とか「反則」とか「ジム」とか「大会」とか、そういう表現である点は容易に推測できますが(そして、それが何であろうと、あまりストーリーには関係しない)、翻訳がある場所もあり、バラバラかな…という点は思えました(ただ、理解できないわけではないし、理解するもしないも、それが何であろうと関係はないし、推知できる範囲なので、「翻訳不足」という減点もこの程度)。
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本映画を通じて、北朝鮮のような「人権概念」が支離滅裂な国からの脱北者(というよりは、広くいえば、国外を逃亡した人)に対する理解が日本でも深まれば…というのが、将来、外国人業務を扱いたいなと思う行政書士試験合格者のひとりからの感想です(もちろん、日本国内でも支離滅裂な犯罪行為をする人は、国内でも厳しく罰さなければならないのであり、その点は別途考えるべきこと)。