「変わるマルセイユ、変わらないオクラホマ、変わる主人公」スティルウォーター 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)
変わるマルセイユ、変わらないオクラホマ、変わる主人公
フランスをはじめ、欧州で排外主義的な動きが高まっている。極右勢力が政権与党に入ることも珍しくなくなってきている。本作のタイトルは、オクラホマ州の町の名前で、主人公の出身地。しかし、映画の主な舞台はフランスのマルセイユだ。2つの街の、対照的な部分と共通している部分が映画の中で示される。
進化に取り残されたかのようなスティルウォーターは、いつまでも変わらない。白人ばかりが住んでいて、新しい経済も発展していない。主人公は石油会社に務めていた肉体労働者だが、職を失いかけている。変化できずに沈んでいく街であるスティルウォーターと対照的にマルセイユは劇的に変化している。フランス一の移民の街であるマルセイユは、多くのイスラム教徒が暮らしいている。主人公の娘は、イスラム系の彼女を殺害した嫌疑で収監されている。多様性を尊重する舞台女優のヴィルジニーは排外主義的な白人の老人に激昂する。急激な変化で移民に対する嫌感情も台頭しているマルセイユは、変化が激しすぎて多くの問題を抱えていると言える。
2つの街は対照的だが、どちらも20世紀のままではいられない。アメリカもフランスもこれからの指針を持てずに戸惑っている。この映画はそんな戸惑いを、一つの事件を通して見事にあぶりだしている。
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