「3者の視点で描かれる歴史心理ミステリー」最後の決闘裁判 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)
3者の視点で描かれる歴史心理ミステリー
14世紀半ばから後半の映画ですが、地味に見えてどうして、
新鮮な切り口で面白い歴史史実を描いた見応えある良作でした。
(それにしても女性には受難の歴史でした)
内容は題名の通りそのまんま。
原作はノンフィクションで、1386年のフランス王国のパリにおける
最後の決闘裁判の顛末を描いたエリック・ジェイガー作の
ノンフィクション「決闘裁判 世界を変えた法廷スキャンダル」を
基にしている。
簡単に言えば、夫の留守に家に押し入った旧友(ル・グリ)に
レイプされた妻。
妻と自分の名誉のために命を懸けた死ぬまで戦う「決闘」が描かれる。
第一章
ジャン・ド・カルージュ(マット・デイモン)の真実
第二章
ジャック・ル・グリ(アダム・ドライバー)の真実
第三章
マルグリット・ド・カルージュ(ジョディ・カマー)の真実
3人の視点で1370から1377年そして1380年、
決闘の行われた1386年までを同じシーンで、
3者がどう感じていたか?
そして如何にして「決闘」に至ったのか?
それを描いている。
とても良心的作りなのだが、それ程3者の言い分に大きな違いはない。
新事実も限定的。
嘘つきが1人もいないのですから。
だから同じ場面を3回観たりします。
カルージュが妻と初対面のル・グリに、
「親愛の印に口づけを!!」と促すシーンは3回あります。
(その時ル・グリはマルゴットに一目惚れしたらしい)
重要なシーンなのですが、ナレーションが入る訳でもないから、
マルグリットの瞳がチラッと輝いたり、
ル・グリが怪訝そうに自分の心を覗くように視線を落とす・・・
私には「あら、案外いい感じで、2人はお似合い!!」
・・・みたいに見えるだけです。
違う視点から見える新事実も少しはあるし、
ル・グリから見るとカルージュは変わった男で、
客間的に見て、カルージュが今で言うところの“クレーマー的男“で、
領地の取り分のことを、シャルル国王に申し立てて、
主君ピエール(ベン・アフレック)のメンツを潰したり、
まわりがよく見えない考えの浅いお騒がせ男で、
カルージュの欠点が目立って来るのです。
ル・グリは女たらしの自信家のプレーボーイで、
「多分マルゴットは、夫に不満で自分が迫れば喜んで応じる」
そう思ってたんでしょうね。
ところがカルージュ夫妻は予想外に「戦う意志が満々」
ピエールの仕切る裁判では勝ち目が無いと思うと、
シャルル王に訴えて、カルージュは命を懸けた「決闘」を選ぶのです。
中世ヨーロッパの常識が面白いです。
マルグリットはカルージュとの子宝に恵まれず悩んでいたのですが、
夫婦生活で絶頂を感じたその時に子どもを授かる・・・
のだそうで、レイプされたマルグリットはなんと半年後には、
妊娠して大きなお腹で、裁判の事情聴取を受けている。
運命のいたずらなのか?
性染色体の相性が良かったのか?
まったく皮肉な結果です。
冒頭のシーンは決闘の準備をしてるカルージュとル・グリ。
イザ、スタート!!
と身構えたら、
突然場面が過去に切り替わったのですが、
2時間、決闘に至る諸々の事情を語り、
お待ちかねの決闘の場面が始まります。
「死をもって決着をつける」
その凄まじいこと!!
見物人たちは目が爛々と輝かせて、
「殺せ!殺せ!!」の大合唱。
カルージュが負けた場合マルグリットは裸で引き摺り回されて、
生きたまま火で焼かれる・・・決まりだったんです。
それを知って、さすがに動揺するマルグリット。
まぁ当然、私はカルージュを応援してます。
男と男がメンツを懸けて死に物狂いで戦う。
(マット・デイモン、格好よかった!!)
「決闘」の勝利者が「正しい行為者」
変な理屈です。
この決闘が歴史的に最後になった!!
その理由は、何だったのでしょう?
(日本の江戸時代も不義密通罪は、市中引回しで打首・・・)
でしたね。
やはり、あまりにも野蛮・・・
ということでしょうか。
琥珀糖さんへ
コメントありがとうございました!お褒め頂き光栄です。琥珀糖さんのレビューを読んで、感覚的に自分と近いのかな、と思ってます。今後とも、ご贔屓に
琥珀糖さんへ
決闘裁判そのものは、フランスでも13世紀前半にルイ9世から禁止の勅令が出てます。法治国家としては、社会秩序の維持に悪影響を及ぼす決闘裁判を許すわけにはいかんだろ、と言う事ですね。決闘裁判は無くなりますが、依然として「私闘としての決闘」は残り、剣は拳銃に置き換わり、マカロニウェスタンに繋がって行くとw